約 912,650 件
https://w.atwiki.jp/bamboo-couple/pages/90.html
498 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/01/18(金) 20 01 13 ID QzNRa0Xa 今週の見てたら、1年生→2年生のあいだで、 コジローがサヤの呼び方を「鞘子」から「サヤ」に改めてるのに こんなやり取りがあったのではないかとオモタよ。 キリノ「そういや先生は、なんでサヤの事を”鞘子”って呼ぶんですか?」 コジロー「…ん?いや、俺、高校の時分から大体の奴の事は呼び捨てだぞ?馴れ馴れしいか?」 キリノ「逆ですよ!あたしはあだ名も”キリノ”だからいいけど、本名ってちょっとカタくないっすか?」 コジロー「まぁなぁ… でもあいつからは別に何も言わんしなぁ」 キリノ「駄目ですよそんなんじゃあ!教師たる物、生徒の心を掴まないとっ!」 コジロー「じゃ、じゃあなんて呼べばいいんだよ?」 キリノ「ふつうにあたしみたいに”サヤ”でいいじゃないですか」 コジロー「うーむ気は進まんが…」 キリノ「お~いサヤ~ちょっとおいで~」 サヤ「んーなになにキリノ? …それに先生まで、どしたのその真剣なカオ?」 キリノ「(ささっ、ホラホラ、コジロー先生)」 コジロー「ん、んむっ…さ、サヤ!」 サヤ「…はっ、はいっ!?」 コジロー「…………こ。」 サヤ「はぁ…?」 コジロー「いっ、いやーははは、最近お前のさ、竹刀の振りがさー、鋭くなったなーってキリノと話しててだな」 キリノ「…そ、そーなんだよあたしもさー、もうすぐ抜かれちゃうかなーなんて言っててさー(…ダメだ。このひと…)」 サヤ「は、はぁ… わざわざそんな事言う為に呼んだんですか?」 コジロー「そっ、そうだよーそれだけだとも、ほら練習再開だぞー ………い゙ぁ゙っ!!!」 キリノ「[コジローの足を踏みながら] ご、ごごごごっめんねえサヤ~、じゃああたしと打ち込み稽古やろっかぁ」 サヤ「おっ、いいねぇ~ やろやろぉ!」 コジロー「(ふぅ、ヤレヤレ) ……んっ!サヤ!踏み込みが足りんぞ!」 サヤ「はいっ!」 コジロー「そうだサヤ!今のはいい!」 サヤ「はいっ!がんばりまっす!」 キリノ「(ん?んん?あれれ?)」 みたいな。 でも原作読み返したら初めの呼び方「桑原」だった…orz
https://w.atwiki.jp/bamboo-couple/pages/13.html
”1年・春” 持ち前のエネルギー空回りで、 最初に入った文芸部を入部早々におん出されたサヤ。 「あー、あうぅ、もっとこの、アタシの才能を活かせる部活は無いのかなあ…」 一方の、キリノはってゆーと。 「新入部員の千葉紀梨乃です!剣道は中学からやってます!よろしくお願いします! …ってあれえ?剣道部ってみんなでこれだけしかいないんですか?」 「おー進学組は3年で卒業なんだよ。こう見えて進学校だからなウチは。」 「ダメですよ先生がそんなんじゃ!あたし、勧誘いってきますっ!」 「お、おい!(…元気なやつ…)」 … とりあえず手当たり次第に声をかけてみるキリノ。 「そこのカッコいいお兄さんとふつうのお兄さん!剣道部入らないっ?剣道は臭くてきつくて痛いけど面白いよぉ~」 「誰がふつうのお兄さんだよ、誰が!外山、行こうぜ。」 「まぁ待てよ岩佐… 剣道部か、面白ぇ、入るぜ?案内してくれよ、先輩。」 「あー先輩じゃないよアハハ、私、1年の千葉紀梨乃!キリノでいいよ!よろしくね~ んじゃ行こ行こっ!」 去ろうとしたその時、目を輝かせた赤髪の少女がキリノの背後から一言。 「入るっ!」 「え…? えっと、あなたも剣道部入ってくれるの?」 「うん!今、ピーンと来たの。ほとばしる汗、燃える熱血!ドラマだわ! 私の青春は、剣道に懸ける為にあったのよ!今、そう決めたぁ!入るっ!何が何でもはーいーるぅ!」 「…え、えっとぉ…」 「ウゼ… 早く行かね?えっと…千葉さん?」 「あっ、うんうん皆で行こー!」 「(どうでもいいけど俺もしっかり頭数に入れられてるんだな… まぁいいや。俺経験者だしな。外山もだけど。)」 [つづくと思う] … 「たのもぉ!先生、連れてきたよー」 「う、うおっ、いきなり3人もか?…無茶な事してないだろうな?」 「ええ~、もっと褒めてくれると思ったのにぃ。」 「センセー、俺ら経験者だから稽古着と防具借りてテキトーにやってていいすか?」 「おおーいいよーいいよー好きにやりなぁ、勝手にやりなぁ。」 (経験者、ねえ…? まぁ、手がかからなそうでいいか。) 「んじゃ、ええっと…」 「サヤだよ!桑原鞘子!サヤって呼んでね」 「うん!じゃあ桑原さ…サヤは体操服はあるよね?それに着替えてアタシと基礎トレだぁ~」 「おぅ!基礎トレいいねえ~ 青春だぁ!燃えるぅ!」 「う~ん、よく分からないけど熱い子だねえ…」 (お前もだけどな…) 心の中で2つ突っ込みを入れつつ、黙ってるコジロー。 … それぞれ着替えて出て来る4人。 「じゃあ、校内の走り込み、行ってみよー」 「おう!桑原鞘子、行きます!」 二人でランニングに出ようとすると後ろから声がかかる。 「あっ、ちょっと待ってよ、千葉…さん?」 「…うん?外山くんどうしたの? あと、私の事は、キリノでいいってば!」 「走り込みは一人でもいいじゃん、お互い実力知りたいしさ、俺と地稽古しねえ?」 「うーんと、私はいいけど、桑原さん、一人でもだいじょう… って、ありゃ? もういないね; じゃあ外山くん、やろうか!」 (外山…またかよ… あーあ、知らねえぞ俺は。) 大体顛末は分かってても、止まらないので黙ってる岩佐。 … (…はぁ、はぁ、はぁ。) (よく考えたらこれ何周くらいするのかな…) 陽も傾きかけるくらい走り込んだ後、キリノが居ない事に気付くサヤ。 「えっと、千葉さん!? …うう、なんでアタシ一人なのぉ? これが噂に聞く新入部員イジメってやつかあ、ちくしょー!へこたれるもんかぁ!」 … サヤがダッシュで道場に戻って来ると、剣道の試合をしてる(?)キリノと外山。 (むーこれが剣道の試合ってやつかぁ!いいねぇ、いいねぇ!) (…あれ? でも、千葉さん… なんか凄くシンドそうだよ?) (それに外山…くん、だっけ、なんか痛そうなとこばっか叩いてない?) 「ねえ先生、あれって大丈夫なんですか? 千葉さん、辛そう…だよ?」 「んー、ちょっとありゃ、流石にマズいなあ。」 そんな会話はつゆ知らず、Sっ気満載でキリノを叩き伏せる外山。 「弱ぇぇなあキリノ… 中学の時から剣道やってんだろ?オラ!オラ!」 「あいだだだぁ…(涙声)」 ぶちっ。 「(そろそろ止めんといかんな。)おい、ちょっとそこ…!!」 「バッカ野郎ォォ!!!! この、外山ッ!!!! っざっけんなぁーーーッ!!!!」 コジローの竹刀を奪い取り、全身全霊の力で外山をシバき倒すサヤ。 「女の子相手にビシバシビシバシ叩いて何考えてるのよアンタは!? それでも経験者か!恥を知りなさいよ、恥を! …ってアレ?」 「(ん、あら?あらららら?)お、おい外山くん?」 後頭部にいいのが入り、完璧にのびる外山。 元々止めに入ろうとしていたコジローが慌てて診る、が。 「おーい。外山くーん。 …あちゃー、完全にノびてるな。」 こりゃ、しょうがないな。岩佐、お前ツレだろ?保健室にでも連れてってやれ。」 「うぃーす。」 「…あ、待て。まぁ大丈夫とは思うが、犯人は黙っといてやれよ?」 「はぁ?なんでっスか?」 「一応そいつも段持ちらしいから、素人にどつかれて気ぃ失ったんじゃ面子もないだろ。 俺が止めようとしてやり過ぎたって事にでもしといてやれ、な?」 「いっすけど… こいつドSだから先生に復讐するかもっスよ?」 「生徒にやられるほど落ちぶれちゃいねぇよw」 「そッスか。んじゃ。おら外山~行くぞぉ」 外山を担ぎ上げ、出て行く岩佐。 … 「先生、ゴメンなさい…」 「いや、俺も止めに入るの、遅かったしな。それよかお前もそっち、キリノを介抱してやれよ。」 「うっ、うん!」 とてててて、ヘタり込んでるキリノの元へやって来るサヤ。 「あう~、さっきはありがとう~桑原さん~」 「大丈夫?全く酷い奴もいるもんだね!青春の敵だぁ!」 「うーん、ちょっと止め所わかんなくなっちゃってぇ~ でも…桑原さんは、きっと強くなるよぉ~」 「ほ、ほんとかな?」 「うん、男子一発でのしちゃうなんて、大したもんだよ!すごいすごい!」 「あっ、ありがとう… その、…千葉さん?」 「き・り・の。」 「えっ?」 「桑原さ…サヤにはまだ、ちゃんと自己紹介してなかったよね。あたし、千葉紀梨乃!"キリノ"って呼んでね!ふふっ。」 「千葉…キリノ… うん、キリノ! あたし、桑原鞘子!"サヤ"だよ! よろしくね!えへへっ!」 「こちらこそ、サヤ、これからもよろしくっ!」 …そんな感じの、出会いでした。とかなんとか。 [おわってないけどおわり]
https://w.atwiki.jp/bamboo-couple/pages/203.html
402 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/03/11(火) 18 08 55 ID EPpWu6y0 来週はまあ解決編だろうから多少は和らぎそうだが、 ただサヤの暴走だけが不安でならない それときりのんが学校を休むなんてのは、本当に よ っ ぽ ど の 事なんだぞ?分かっているよなスタッフ? 419 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/03/11(火) 19 12 37 ID kyEVp+Tl 402 意外とサヤの押し倒すのってのも 結構こんな感じのを期待してたりするのだが… え、ダメ? (inキリノルーム) 「あんた、こないだから何一人で背負い込んでるの?」 「えーっ?う~ん…」 「部長だからって何でもできるわけじゃないでしょ」 「でも…それでもあたし、部長だから…」 「違うよ!…たく、もう!」 「え、あ、ちょっ!サヤぁ!?」 (ベッドにばたん) 「…ホラね、あたしにこんな簡単に押し倒されてるあんたは何?」 「ぶちょ…」 「だから、違うよ!キリノはキリノだよ!あたしの友達の、しっかりしてるけど大事なとこで間が抜けてる、ほっとけない…やさしいキリノだよ!」 「…サヤ…」 「だからっ…お願いだからそんな悲しい顔しないでよっ…!」 「………」 「あたしも背負うから!あんたが辛いんなら、あたしも一緒に背負ってあげるから!」 「サヤ…そうだね、ごめん。悩む事じゃなかったのに、あたし考え過ぎちゃって。らしくないよね」 「キリノ…?」 「切ろう、サヤ。外山君たちを。あたし、履き違えてた。 漠然とだけど…これは自分達への戒めなんだなーって、思ってた。受けなきゃいけない、裁きなんだなって。 けど違うよね、それでタマちゃんや…1年生の皆にまで迷惑かけちゃうのは、違うと思う」 「……うん」 「外山くん達を切らない事で受けるのが休部っていう罰なら、 切った方に圧し掛かる心の痛みって言うのも罰のうちだよね。 だからそれを、一緒に背負って?ね、サヤ」 「…喜んで!」 「えへへ…こういうも、The部長のつとめだもんね」 「!!! …あんたって子は~」 (ぐりぐり) ただこのキリサヤは原作とは根本から、全く違うもんだな。 自重する。
https://w.atwiki.jp/bamboo-blade/pages/75.html
”…さて、どうしたもんか?この状況。” 「せっ、先生、どうしよう?」 「………どうしよ。」 俺の名は石田虎侍。室江高校剣道部顧問だ。 今朝、ひょんな事で頭をぶつけて教え子と入れ替わると言う奇妙な体験をした俺は、 まさかその次の機会が、こうもあっさりと回って来るなんて思いもしなかった…が、どうやらガチらしい。 信じ難いが、いま目の前にいるタマはユージで、ユージはタマなのだそうだ。 確かに、こんなに狼狽したタマは見た事がない。ユージも流石にいつもより落ち着きすぎだ。 しかもこれって、俺とキリノが元に戻るのを手伝ってくれたせい…なんだよな。 一応顧問として、先に同じ現象を経験した者として、ここは大人な態度を示さなければならない。 大人な意見、うーんと… 『…んじゃあさ。もう一回同じことやってみりゃ直るんじゃないか? こう、”ごつんっ☆”と。』 「…ダメーっ!!」 声がでかい。サヤだ。何でお前が。 「ダメだよ、勝手な事言わないでコジロー先生! そんな一日に2回も3回も記憶の操作をやっちゃうと、人は”戻って来れなく”なるんだよ! 私、小説で読んだ事あるもん!その人達、最後には記憶が混ざり合っちゃって、 元の二人はどこにもいなくなっちゃうんだよ!だからダメ!ダメなんだってば!」 『分かった。分かったからサヤお前も落ち着け。』 まぁ、多少飛躍し過ぎの観はあるが、こんな事何度もやってると人体によくはないだろうなあ、とは俺も思う。 大体、タマが剣の振り方を忘れてしまったり、ユージくらいにまで弱体化してしまったらどうなる。俺の野望は。クビは。 「あのぅ~、ちょおっとコジロー先生とサヤに、お耳に入れたい事が…」 キリノだ。元に戻れて嬉しそうだがそんなに俺の体イヤだったのか? まあお互い様だけど…ちょっと悲しいぞ。て何考えてる俺。 「ダンくんとミヤミヤも、良かったら聞いてくれる?」 キリノの所へやって来た俺とサヤ、ダンとミヤミヤは取り合えず当人達はそっちのけでキリノの話に耳を傾ける。 「(あのね… 元に戻れるかはともかくとして、私、もうちょっとあの二人はあのままでもいいと思うの。) (って言うのもね、ユージくんって、タマちゃんの事、明らかに意識してるでしょ。この間なんて間接キ…まあこの話はいっか、とにかく)」 (でねでね、タマちゃんもちょっと今日、様子がヘンじゃなかった?他にもな~んか、怪しいのよ。あの二人。) (だからね、このまま二人を入れ替えたまま一緒にいさせて、そのままさりげな~く、くっつけちゃえないかな?って…ダメ?) 『(オイオイ、お前がそうしたいのは勝手だけどな…)』 なんつー無茶を言い出す女だ。ちょっとはタマやユージの気持ちも考え…ての思いつきなんだろうな、こいつの事だから。 その方が元に戻る可能性も高まる、とコイツなりの算段もあるのだろう。 それに対し、ミヤミヤが暗そうに口を開く。 「(馬鹿じゃないですか?そんなの当事者にやらせておけばいいんだし。それより元に戻す方法を考えてあげないと。)」 ごもっとも。しかし、それには彼氏のツッコミが入った。 「(ミヤミヤ~ 俺はユージとタマちゃんがうまくいった方がいいと思うぞぉ~) (それに人と人が恋をするのって、いい事じゃないかあ~ 俺とお前だって、そうだろぉ~)」 「(ダンくんっ…! わかった私協力するよ!)」 全くこいつらは。サヤはどうやら元々乗り気のようだ。 「(い~じゃんいいじゃん?楽しそうじゃん!やってみようよ!)」 まぁくっつける云々は置くとして、いま無理に外からいじるよりは暫く放置してみるのもいいのか…? 『(まあ、じゃあ、やってみるか?)』 「(さっすが、コジロー先生!)」 キリノは嬉しそうだ。お前はあの二人のお母さんか? ともあれ、こうして一枚岩になった俺達は、ユージとタマを呼んだ。 「タマちゃん、ユージくん、ちょっとおいで~」 俺達のひそひそ話を少し訝しがりながら、やって来るユージのタマと、タマのユージ。 「あのね、サヤの言う通り、あんな方法で何度も試してると、危ないし、もっとヤバい事になるかもしれないよね? でね、ちょっとだけの間、他の方法が考えつくまで二人にはそのままで暮らして欲しいの。」 元に戻る方法はあたし達が絶対何とか考えるから!安心して!ぶいっ!」 「「……………。」」 まあ、そりゃ、受け入れ難いわな。 そういえば、何で俺はヘーキだったんだ…? 夢だと思ってた?時間がなかった?…相手がキリノだったから? …いやいやそれは。さすがに。 … 「わかりました。」 お、タマ。いや今はユージか。 「さっきタマちゃんとも二人で話してたんですけど… やっぱり、こうなった以上ある程度覚悟はしなきゃいけないと思うので…ね?タマちゃん」 「………うん。 でも… ううん、何でもない。」 なんかユージ、いや今はタマか…は様子が変だな? まぁ、でも、決めた事だししょうがない。 『よっしじゃあ、早いけど今日は解散!家に帰ってグッスリ眠る事!いいな!』 「「「「ありがとうございましたっ!」」」」 (ユージの川添家) 『ただいまー。』 っと、ついいつもの家の調子で言っちゃったけど… まあ、ただいまくらいは皆言うよね? でも…ホントに、何でこんなことになっちゃったのかなあ… おっと、タマちゃんらしくタマちゃんらしく! 「おお、おかえりタマキ。今日は早かったんだな。」 『うん、そうだよ父さん、今日は部活が先生の都合で途中で終わっちゃって… あ、でも、ちゃんと練習はしたんだよ? 心配しないでね。』 「(目をぱちくり)そ、そうか。いや心配はしてないのだよ。スマンな…」 …う~ん、何か変な事言っちゃったかな? … 「タマキ、道場の時間だぞ~」 『あ、うん!』 あれ?安請け合いしちゃったらまずかったのかな… 今僕はタマちゃんなわけだから… 稽古つけるって、大人相手に!? そりゃムリだ!うわあああどうしよう。 … 『メェェェェェン!!!!』 「今日も凄いな、タマちゃんは…お願いします!」 『お願いします、キヤァァァァァ!!!!』 …すごい。自分でも自分がとんでもない集中の域に居るのがわかる… 相手のきっと、凄く強いオジサンの行動が手に取るように分かるし、身体が勝手に動く。 どうしちゃったんだ僕? ううん、これがきっと、タマちゃんの見てる物なんだ… だとしたら、僕ってなんなんだ…? こんなにも、こんなにも、タマちゃんは遠くに居て、クソッ! 『…ごめんなさい父さん。今日はこの位で上がらせて下さい。』 「む、そうか?まぁ今日はお前の剣にも迷いが見える。上がりなさい。」 …迷っているのは、どう考えても僕、だな。 (タマちゃんの翌日・学校編) 『………栄花くん、おはよう。』 「おはようユージぃ~」 夕べは大変だったなあ。ユージくんの家族… いい人達だったけど、私、緊張しちゃって… ユージくんも、家じゃそんなに喋らない方みたいだから、ごまかせたけど… …ホントに、なんでこうなっちゃってるのかな。 でも、ユージくんらしくしなくちゃ…ユージくんらしく? … 「中田くん、中田くん、放課後ヒマ?もし良かったらここ教えてくれない?」 あ、女の子… ユージくんなら、教えてあげるのかな… これくらいなら私でも、分かりそうかな? でも… やっぱり、だめ。 『………ごめんね。放課後、部活、いかなきゃ。』 「えっ、ううん、いいのよ、私の方こそゴメンね~」 「お~、じゃあ、俺が教えてやるよぉ~」 「えー、栄花くんはいいよお。」 「つれない事言うなってぇ~」 …あ。 『………栄花くん、宮崎さんが見てるけど…』 「お~ミヤミヤぁ~ごめんよ浮気しちゃってえ~」 「ううん、いいのよダンくん~ だっていつも最後は私の所へ戻って来てくれるんだもん!」 …仲良いなぁ、栄花くんと宮崎さん… ユージくんも… 昨日、キリノ部長と、仲良さそうだった。 ううん、あれは先生だから… でも… なんでこんなに、モヤモヤするの? …部活、行こうっと… 『………おはようございます。』 「あら~おはようユー… タマちゃん!」 キリノ先輩…先に来てたんだ。 (…チクリ。) 「聞いてよ聞いてよ!サヤと今日すっごい考えてたんだけど~」 キリノ…昨日の今日で元気な奴だ。しかし… こいつらの共謀なんて、十中八九ロクなもんじゃないだろうな。 「そうだよ!タマちゃんユージくん!いい?」 「「キスしてみれば、治るんじゃない?」」 ほら見たことか。 …お前ら、氏んで来い。マジで。 「えっっっと、キス、ですか? な、な、なんでそうなるんですか!?」 「………キス…(俯きがちに顔真っ赤)」 おーおーおー、若いねえ。 『悪い事は言わんが、あいつ等の言う事は右耳で聞いて、左耳から流せ。』 「「………は、はぁ。」」 「もうっ、真面目に言ってるのに~」 「そうだよ!私がこの本で、ちゃんと見つけたんだから! いい?深層意識を共有している だけの二つの個体の表層意識はもはや別人だと言ってよく、 それ故にその深層意識を表層意識から呼び覚ます為に(ry 行う行為がキスなの!」 出典:少女漫画。わかったわかったサヤ。お前は偉い。 『オラ、練習するぞー』 「「ぶぅ~」」 やっぱりタマの様子がおかしいな。 それどころか今日はユージまで何か変に思い詰めてるし… どうしたんだ一体。取り合えず素振りしてるユージに声をかけてみるか。 『おいユージ、掛り稽古やろうぜ。』 「あ… はい。でも… 先生じゃ相手にならないと思いますよ?」 カチーン。てめえ見た目はタマだが中身はユージだろ! 俺がてめえに負けた事… あれ?試合した事あるっけ? まぁとにかく負ける訳がねぇだろがごるぁぁぁぁ! 「メェェェェェン!!!!メェェェェェン!!!!メェェェェェン!!!!」 『だああっ、ストップ!ストップだタ…じゃなかった、ユージ。』 …ハー、ハー、ハー。 何だこりゃ?ユージの野郎どんなドーピング… いや今はタマだが… んっ、強さはタマのままなのか。じゃあ、タマの方にも当たってみるか。 『おいユー、いやタマ、どうした?なんか悩んでるんじゃないのか?』 「………コジロー先生。 ………私、変ですか?」 いや、俺が聞いているんだが。 『変かどうかは分からないけど、調子悪そうだぞ?それに何か今日はキリノを避けてないか?』 「………いえ、何でも…何でもないです。」 的を射んなあ。キリノとサヤのあんな寝言なんか無視しとけばいいのに。 入れ替わり生活でもストレスでもあるのか… でも、俺には無かったな?キリノの体でも… ああっ、だから俺までキリノを意識し過ぎだ!キリノから離れろ、まず。 しかし…今日はまぁ、こんなもんだな。 『よっしゃ、今日の稽古ここまで!』 「「「「ありがとうございましたっ!」」」」 (ミヤミヤの下校風景) 「タマちゃん、一緒に帰ろう。」 「ユージくん……うん、帰ろ。」 「あのね、タマちゃん、話したい事があるんだ。喫茶店、寄っていい?」 「……うん。私も、お話、あるから。」 …下校中にそんなとこ寄ったらダメだろあんたらは… でも帰りに喫茶店なんて、健全だねー。 「お~いミヤミヤ~、の~どかわいたから駅前のスタバよってい~~?」 『もちろんよダンくん!』 … 「ミ~ヤ~ミ~ヤ~ 席とっといてよ~~」 『は~い』 えっと、あの二人は… やっぱり、いた。 「………ふう。」「………フウ。」 「「………あのねっ!」」 「「…………ど、どうぞ。」」 ふふっ、初々しいなあ。あたしとダン君にもこんな頃、あったっけ… 「…あのね。僕、この…タマちゃんの身体になって、気付いた事があるんだ。」 「………気付いた事?」 「この、タマちゃんの体に比べて、元の、僕の体は…男なのに、全然、弱くてさ。 ホントに嫌気がさしてて… なのに、こうして入れ替わってるとさ。 時々、酔っちゃいそうになるんだ。今、この、自分の物でない力に。 それがもう… 僕自身が、許せなくてさ。情けなくて…」 「………私も…ユージくんの身体になってから…ううん、なる前から… ユージくんがキリノ部長と… 仲良さそうにゴミ運んでた時、ちょっとイヤだったの。 それで、今日も…ユージくんの身体で他の女の子と仲良くするのが、すっごく、イヤだったの。 部活のときだって、ずっと、ずっと、ユージくんの身体でキリノ部長とお話するのが怖くて… 私、私、なんでこんなイヤな事思うのかなあ? ………私、分からない…」 ちょ、ちょっと。 「えっ、でも、そんな事…」 「"そんな事"じゃないよ! ………こんなに、苦しくて、悲しいのに… ………"そんな事"なんかじゃ…ない、よぉ…」 「(ムカ) じゃ、じゃあ!僕だってこんな… 強いタマちゃんが… 守り、たいのに! 何で…」 「………そんなの… グスッ …いらない… 私、」 「そっちだって、"そんなの"じゃないか! 俺だって、」 「ユージくんになんか!」 「タマちゃんになんか!」 「「なりたくなかった!!」」 …うわぁー、これは、さすがに、出て行かないとダメかなあ? 「ゆーじぃ」 「え、栄花くん!?」 (ぱぁん、とユージ(体はタマ)の頬を張るダン) ちょちょちょっと、なんてカッコいいのダンくん! いやいやいや。 『ストーップ!ハイそこまでです。』 『あなた達が何でケンカしてるのかは知らないけど。』 『ケンカするなら、場所を選びなさいっ。お店にご迷惑、かけちゃだめでしょ?』 「「………」」 「……ゴメンね、先、帰る… 宮崎さん、栄花くん、ごめんね。ありがと。」 「僕も、帰るよ… ごめん、ミヤミヤ、栄花くん。」 …ふぅ。そうそう、今日の所は帰りなさい。 『…ダンくん、ありがとうね。カッコよかったよ。』 「ミ~ヤミヤのほうこそ、かぁっこよかったぞ~」 『ダンくんっ…!』 この人が私の彼氏で、ホントに、よかった。 翌日。ユージから事の顛末を聞いた俺達は、一様にこう反応した。 『あやまっとけ。』 「あ~やまんなさ~い」 「あやまった方がいいよ!」 「…まだ、あやまってねえの?(黒)」 「おまぁえが~あやまれぇ。」 「うう… あやまります。」 …(それから一週間後。) …だからって、わざわざ道場をその待ち合わせに使うかぁ? 誰かに吐き出せば解消できる類だったユージの悩みに対し、タマの傷は深かった…のだろう。 他の部員に知られてしまった事もあるし、実際タマは全然道場にも姿を見せていなかった。 それが、ようやく話をつけられたと言うので、今日はここ道場にて謝罪の儀式なのだが、肝心のタマが… 来た。 『ほらほら俺達は出てるぞー』 「「「「え~」」」」 『二人だけにしてやんなきゃ、な?』 渋々ながら全員出払った。じゃあ後は、頼むぞユージ。 「………ユージくん。」 「タマちゃん。 …来てくれてありがとう。」 (ひょっこり、道場裏の格子戸に野次馬5人。) 『(コラッ、お前等、何してんだよ!)』 「(え~だって、やっぱり気になるじゃないですか~)」 「(先生こそこんなトコで隠れて見てるのに!ずーるーいー!)」 …教師たるもの、生徒の管理は当然の権利だ(?) まぁ実際、俺とキリノが撒いた種みたいなもんだしな…当然、気にはなる。 「僕、タマちゃんの気持ち考えずに、自分の事ばっか聞いてもらおうとして。」 「…」 「それどころかすっごい傷付ける様な事まで言っちゃって…」 「……」 「ホントに、どうやって謝っていいのかもわからないけど、ごめん!」 「………いいよ。」 「…許してくれるの?」 「……もともと、許とか、許さない、とかの事じゃ、ないし… あのね、私… あれから一杯考えて。 わからないけど、この気持ちのホントが知りたいの。」 「えっ、それって…」 「……ユージくん、私と、えっと… キス、してくれる?」 「な、な、なんでそうなるの?」 「宮崎さんが…」 !!!! 『(ミヤ~お前なぁ~)』 「(えーっ、だって… 先生はニブいから分からないと思いますけどぉ)」 『(誰がニブいんだよ… ったく! キリノ!お前くっつきすぎだ!見えんだろーが!)』 「(え~いいじゃないっすかぁ~~)」 「「「(それだよ…)」」」 「…ダメ?」 「いや、ええと、ううん… ホントに、僕でいいの?」 「………ユージくんとじゃないと、分からないよ… ううん、こう言う言い方じゃズルイよね。 ………ユージくんが、いいの。」 「…あ、ありがとう。 …じゃあ、えっと。」 「うん…(目を閉じる)」 「…」 「…ん。」 …長い。ユージはともかくタマは知識もないだろうにこの長さはどうだ。 大人のキス。いやいや大人未満の… ユージの方が知ってたのだろう。 とりあえずおぼつかないながら、ずっと、目は閉じたまま、唇を重ねている。 『(オイあいつ等、長くないか?息、止まってるぞ?)』 「「「「(先生ちょっと黙ってて!)」」」」 やっと終わったらしい。 ゆっくり離れていく二人の唇に銀の橋がかかる。 …ん?なんか様子が変だが。 「…ぷは。 …ん?あれ?」 「………ふぅ。 ………あ。」 「もどっ…てる?」 「………戻ってる。」 「やったよ、タマちゃん!」 「………うん。よかった…! …ありがとう、ユージくん。」 「僕の方こそっ… 一杯迷惑かけちゃったのに、そんな…」 「ユージくん…」 だあぁ、そっから先は流石にご法度だ!ヤング誌じゃあるまいし! 『そこまでっ!お前等、神聖な道場を汚すんじゃねえ!』 「こ、コジロー先生!?見てたんすか?」 「「「ちょ~、先生、空気読もうよ~」」」 「!!! ………みんなも、見てたんですか?#」 「いやいやいや、あらら …タマちゃん? …ちょっと、あ、突きは、ダメぇーッ!!」 怒れる大魔神・タマと便乗したユージにフルボッコにされた俺達は 足腰ガクガクのまま自転車で帰ってく二人を見送った。 いや、と言うか、お見送りさせられた。 …その後、下校中のカップルに、このような会話があったかどうかは、定かではない。 「……ねえ、ユージ君。」 「なに、タマちゃん?」 「……私達、サヤ先輩の言ってたお話みたいに、少しは、混ざっちゃったのかなあ。」 「入れ替わって…それから元に戻った事で、記憶が、って言う事?」 「…うん。今、たぶんユージくんと同じ事、考えてると、思うし…… 私ね。」 「待って。」 「…え?」 「それは僕に、先に言わせて?」 「……うん。」 「好きだよ、タマちゃん。」 「……私も、ユージくん。」 「「ふふふっ」」 「じゃあ、またね!」 「…うん、ばいばい!」 [終わり?] ~「その後」の「その後」の、エピソード~ 「ねぇ~?だから言ったじゃん!うまくいったでしょ?あっはっはっは」 …キリノ。こいつは。本当に。どこまで分かってるんだか。 全て終わった後の道場。タマに最も念入りにボコられた俺とキリノは二人だけで道場の壁にへたりこんでいた。 「…ところでコジロー先生、不思議じゃなかったですか?」 『ん?何がだ?』 突如、エンジンが再点火したかのように、表情をイキイキとさせるキリノ。 相変わらずこいつの表情からは何を考えているか読めない。 「ほら~、はじめ、私と先生が入れ替わった時、先生、イヤじゃなかったでしょ? …私も、全然、イヤじゃなかった。」 「サヤの言ってたお話って、ホントなんですよ。意識と意識が入れ替わると、一瞬、お互いの記憶… 記憶、だけじゃなくて、人格やキモチや経験、そんなのが全部、同じになっちゃうの。」 『ちょっと待て、何を言ってるんだお前?』 ついには立ち上がり、手を広げて解説を始めるキリノ。 俺もなんとか、壁を頼りに身体を起こす。 「きっと、タマちゃんとユージくんは、ぶつかった時、どっちか…もしかしたら二人とも、不安だったのかな? だから、あんなに、離れていきそうになっちゃったんですよ。お互いの、心と心が。 それを直す為には、二人が、ホントに結び付く必要があったんですよ~」 『…だあああっ、だから、俺にわかる言葉でしゃべってくれ、お願いだから。』 と言いながら、覗き込めばキリノの目は真剣その物だ。一点の曇りも無い。 俺の身体を回り込むように歩きながら、続けて喋り出す。 「…私達が入れ替わった時、コジロー先生の気持ちが私に溶けて、私の気持ちもコジロー先生に溶けたんですよ。 お互いの… その、”好きだ”って気持ちが、ね? 私… ホントに、嬉しかったんですよ? 本当の本当に… 今でも思い出すだけで、跳び上がっちゃいそうなくらい! コジロー先生も、そうだったはずですよね~? …だから、私達は見た目は変わっても、全然変わらなかったでしょ?」 「サヤは勘違いしてるみたいだけど、サヤの言ってたあの物語って、本当はハッピーエンドなんですよ。 私たちは、最初から、”もとどおりの二人”、だったって事なんですよ!」 『…つまり?』 俺の正面にキリノの身体が来て、向かい合う。 つまりは。 「私たちぃ、トロットロに、相思相愛!相性抜群!って事ですよ、せーんせっ♪」 カカトを少し上げ、静かに目を閉じて、キスを促すキリノ。 ―――ああ、こいつには、一生敵わんな。と、思った。 『しょうがねえなあ…』 [おわりです。]
https://w.atwiki.jp/bamboo-blade/pages/27.html
”…さて、どうしたもんか?この状況。” 「せっ、先生、どうしよう?」 「………どうしよ。」 俺の名は石田虎侍。室江高校剣道部顧問だ。 今朝、ひょんな事で頭をぶつけて教え子と入れ替わると言う奇妙な体験をした俺は、 まさかその次の機会が、こうもあっさりと回って来るなんて思いもしなかった…が、どうやらガチらしい。 信じ難いが、いま目の前にいるタマはユージで、ユージはタマなのだそうだ。 確かに、こんなに狼狽したタマは見た事がない。ユージも流石にいつもより落ち着きすぎだ。 しかもこれって、俺とキリノが元に戻るのを手伝ってくれたせい…なんだよな。 一応顧問として、先に同じ現象を経験した者として、ここは大人な態度を示さなければならない。 大人な意見、うーんと… 『…んじゃあさ。もう一回同じことやってみりゃ直るんじゃないか? こう、”ごつんっ☆”と。』 「…ダメーっ!!」 声がでかい。サヤだ。何でお前が。 「ダメだよ、勝手な事言わないでコジロー先生! そんな一日に2回も3回も記憶の操作をやっちゃうと、人は”戻って来れなく”なるんだよ! 私、小説で読んだ事あるもん!その人達、最後には記憶が混ざり合っちゃって、 元の二人はどこにもいなくなっちゃうんだよ!だからダメ!ダメなんだってば!」 『分かった。分かったからサヤお前も落ち着け。』 まぁ、多少飛躍し過ぎの観はあるが、こんな事何度もやってると人体によくはないだろうなあ、とは俺も思う。 大体、タマが剣の振り方を忘れてしまったり、ユージくらいにまで弱体化してしまったらどうなる。俺の野望は。クビは。 「あのぅ~、ちょおっとコジロー先生とサヤに、お耳に入れたい事が…」 キリノだ。元に戻れて嬉しそうだがそんなに俺の体イヤだったのか? まあお互い様だけど…ちょっと悲しいぞ。て何考えてる俺。 「ダンくんとミヤミヤも、良かったら聞いてくれる?」 キリノの所へやって来た俺とサヤ、ダンとミヤミヤは取り合えず当人達はそっちのけでキリノの話に耳を傾ける。 「(あのね… 元に戻れるかはともかくとして、私、もうちょっとあの二人はあのままでもいいと思うの。) (って言うのもね、ユージくんって、タマちゃんの事、明らかに意識してるでしょ。この間なんて間接キ…まあこの話はいっか、とにかく)」 (でねでね、タマちゃんもちょっと今日、様子がヘンじゃなかった?他にもな~んか、怪しいのよ。あの二人。) (だからね、このまま二人を入れ替えたまま一緒にいさせて、そのままさりげな~く、くっつけちゃえないかな?って…ダメ?) 『(オイオイ、お前がそうしたいのは勝手だけどな…)』 なんつー無茶を言い出す女だ。ちょっとはタマやユージの気持ちも考え…ての思いつきなんだろうな、こいつの事だから。 その方が元に戻る可能性も高まる、とコイツなりの算段もあるのだろう。 それに対し、ミヤミヤが暗そうに口を開く。 「(馬鹿じゃないですか?そんなの当事者にやらせておけばいいんだし。それより元に戻す方法を考えてあげないと。)」 ごもっとも。しかし、それには彼氏のツッコミが入った。 「(ミヤミヤ~ 俺はユージとタマちゃんがうまくいった方がいいと思うぞぉ~) (それに人と人が恋をするのって、いい事じゃないかあ~ 俺とお前だって、そうだろぉ~)」 「(ダンくんっ…! わかった私協力するよ!)」 全くこいつらは。サヤはどうやら元々乗り気のようだ。 「(い~じゃんいいじゃん?楽しそうじゃん!やってみようよ!)」 まぁくっつける云々は置くとして、いま無理に外からいじるよりは暫く放置してみるのもいいのか…? 『(まあ、じゃあ、やってみるか?)』 「(さっすが、コジロー先生!)」 キリノは嬉しそうだ。お前はあの二人のお母さんか? ともあれ、こうして一枚岩になった俺達は、ユージとタマを呼んだ。 「タマちゃん、ユージくん、ちょっとおいで~」 俺達のひそひそ話を少し訝しがりながら、やって来るユージのタマと、タマのユージ。 「あのね、サヤの言う通り、あんな方法で何度も試してると、危ないし、もっとヤバい事になるかもしれないよね? でね、ちょっとだけの間、他の方法が考えつくまで二人にはそのままで暮らして欲しいの。」 元に戻る方法はあたし達が絶対何とか考えるから!安心して!ぶいっ!」 「「……………。」」 まあ、そりゃ、受け入れ難いわな。 そういえば、何で俺はヘーキだったんだ…? 夢だと思ってた?時間がなかった?…相手がキリノだったから? …いやいやそれは。さすがに。 … 「わかりました。」 お、タマ。いや今はユージか。 「さっきタマちゃんとも二人で話してたんですけど… やっぱり、こうなった以上ある程度覚悟はしなきゃいけないと思うので…ね?タマちゃん」 「………うん。 でも… ううん、何でもない。」 なんかユージ、いや今はタマか…は様子が変だな? まぁ、でも、決めた事だししょうがない。 『よっしじゃあ、早いけど今日は解散!家に帰ってグッスリ眠る事!いいな!』 「「「「ありがとうございましたっ!」」」」 (ユージの川添家) 『ただいまー。』 っと、ついいつもの家の調子で言っちゃったけど… まあ、ただいまくらいは皆言うよね? でも…ホントに、何でこんなことになっちゃったのかなあ… おっと、タマちゃんらしくタマちゃんらしく! 「おお、おかえりタマキ。今日は早かったんだな。」 『うん、そうだよ父さん、今日は部活が先生の都合で途中で終わっちゃって… あ、でも、ちゃんと練習はしたんだよ? 心配しないでね。』 「(目をぱちくり)そ、そうか。いや心配はしてないのだよ。スマンな…」 …う~ん、何か変な事言っちゃったかな? … 「タマキ、道場の時間だぞ~」 『あ、うん!』 あれ?安請け合いしちゃったらまずかったのかな… 今僕はタマちゃんなわけだから… 稽古つけるって、大人相手に!? そりゃムリだ!うわあああどうしよう。 … 『メェェェェェン!!!!』 「今日も凄いな、タマちゃんは…お願いします!」 『お願いします、キヤァァァァァ!!!!』 …すごい。自分でも自分がとんでもない集中の域に居るのがわかる… 相手のきっと、凄く強いオジサンの行動が手に取るように分かるし、身体が勝手に動く。 どうしちゃったんだ僕? ううん、これがきっと、タマちゃんの見てる物なんだ… だとしたら、僕ってなんなんだ…? こんなにも、こんなにも、タマちゃんは遠くに居て、クソッ! 『…ごめんなさい父さん。今日はこの位で上がらせて下さい。』 「む、そうか?まぁ今日はお前の剣にも迷いが見える。上がりなさい。」 …迷っているのは、どう考えても僕、だな。 (タマちゃんの翌日・学校編) 『………栄花くん、おはよう。』 「おはようユージぃ~」 夕べは大変だったなあ。ユージくんの家族… いい人達だったけど、私、緊張しちゃって… ユージくんも、家じゃそんなに喋らない方みたいだから、ごまかせたけど… …ホントに、なんでこうなっちゃってるのかな。 でも、ユージくんらしくしなくちゃ…ユージくんらしく? … 「中田くん、中田くん、放課後ヒマ?もし良かったらここ教えてくれない?」 あ、女の子… ユージくんなら、教えてあげるのかな… これくらいなら私でも、分かりそうかな? でも… やっぱり、だめ。 『………ごめんね。放課後、部活、いかなきゃ。』 「えっ、ううん、いいのよ、私の方こそゴメンね~」 「お~、じゃあ、俺が教えてやるよぉ~」 「えー、栄花くんはいいよお。」 「つれない事言うなってぇ~」 …あ。 『………栄花くん、宮崎さんが見てるけど…』 「お~ミヤミヤぁ~ごめんよ浮気しちゃってえ~」 「ううん、いいのよダンくん~ だっていつも最後は私の所へ戻って来てくれるんだもん!」 …仲良いなぁ、栄花くんと宮崎さん… ユージくんも… 昨日、キリノ部長と、仲良さそうだった。 ううん、あれは先生だから… でも… なんでこんなに、モヤモヤするの? …部活、行こうっと… 『………おはようございます。』 「あら~おはようユー… タマちゃん!」 キリノ先輩…先に来てたんだ。 (…チクリ。) 「聞いてよ聞いてよ!サヤと今日すっごい考えてたんだけど~」 キリノ…昨日の今日で元気な奴だ。しかし… こいつらの共謀なんて、十中八九ロクなもんじゃないだろうな。 「そうだよ!タマちゃんユージくん!いい?」 「「キスしてみれば、治るんじゃない?」」 ほら見たことか。 …お前ら、氏んで来い。マジで。 「えっっっと、キス、ですか? な、な、なんでそうなるんですか!?」 「………キス…(俯きがちに顔真っ赤)」 おーおーおー、若いねえ。 『悪い事は言わんが、あいつ等の言う事は右耳で聞いて、左耳から流せ。』 「「………は、はぁ。」」 「もうっ、真面目に言ってるのに~」 「そうだよ!私がこの本で、ちゃんと見つけたんだから! いい?深層意識を共有している だけの二つの個体の表層意識はもはや別人だと言ってよく、 それ故にその深層意識を表層意識から呼び覚ます為に(ry 行う行為がキスなの!」 出典:少女漫画。わかったわかったサヤ。お前は偉い。 『オラ、練習するぞー』 「「ぶぅ~」」 やっぱりタマの様子がおかしいな。 それどころか今日はユージまで何か変に思い詰めてるし… どうしたんだ一体。取り合えず素振りしてるユージに声をかけてみるか。 『おいユージ、掛り稽古やろうぜ。』 「あ… はい。でも… 先生じゃ相手にならないと思いますよ?」 カチーン。てめえ見た目はタマだが中身はユージだろ! 俺がてめえに負けた事… あれ?試合した事あるっけ? まぁとにかく負ける訳がねぇだろがごるぁぁぁぁ! 「メェェェェェン!!!!メェェェェェン!!!!メェェェェェン!!!!」 『だああっ、ストップ!ストップだタ…じゃなかった、ユージ。』 …ハー、ハー、ハー。 何だこりゃ?ユージの野郎どんなドーピング… いや今はタマだが… んっ、強さはタマのままなのか。じゃあ、タマの方にも当たってみるか。 『おいユー、いやタマ、どうした?なんか悩んでるんじゃないのか?』 「………コジロー先生。 ………私、変ですか?」 いや、俺が聞いているんだが。 『変かどうかは分からないけど、調子悪そうだぞ?それに何か今日はキリノを避けてないか?』 「………いえ、何でも…何でもないです。」 的を射んなあ。キリノとサヤのあんな寝言なんか無視しとけばいいのに。 入れ替わり生活でもストレスでもあるのか… でも、俺には無かったな?キリノの体でも… ああっ、だから俺までキリノを意識し過ぎだ!キリノから離れろ、まず。 しかし…今日はまぁ、こんなもんだな。 『よっしゃ、今日の稽古ここまで!』 「「「「ありがとうございましたっ!」」」」 (ミヤミヤの下校風景) 「タマちゃん、一緒に帰ろう。」 「ユージくん……うん、帰ろ。」 「あのね、タマちゃん、話したい事があるんだ。喫茶店、寄っていい?」 「……うん。私も、お話、あるから。」 …下校中にそんなとこ寄ったらダメだろあんたらは… でも帰りに喫茶店なんて、健全だねー。 「お~いミヤミヤ~、の~どかわいたから駅前のスタバよってい~~?」 『もちろんよダンくん!』 … 「ミ~ヤ~ミ~ヤ~ 席とっといてよ~~」 『は~い』 えっと、あの二人は… やっぱり、いた。 「………ふう。」「………フウ。」 「「………あのねっ!」」 「「…………ど、どうぞ。」」 ふふっ、初々しいなあ。あたしとダン君にもこんな頃、あったっけ… 「…あのね。僕、この…タマちゃんの身体になって、気付いた事があるんだ。」 「………気付いた事?」 「この、タマちゃんの体に比べて、元の、僕の体は…男なのに、全然、弱くてさ。 ホントに嫌気がさしてて… なのに、こうして入れ替わってるとさ。 時々、酔っちゃいそうになるんだ。今、この、自分の物でない力に。 それがもう… 僕自身が、許せなくてさ。情けなくて…」 「………私も…ユージくんの身体になってから…ううん、なる前から… ユージくんがキリノ部長と… 仲良さそうにゴミ運んでた時、ちょっとイヤだったの。 それで、今日も…ユージくんの身体で他の女の子と仲良くするのが、すっごく、イヤだったの。 部活のときだって、ずっと、ずっと、ユージくんの身体でキリノ部長とお話するのが怖くて… 私、私、なんでこんなイヤな事思うのかなあ? ………私、分からない…」 ちょ、ちょっと。 「えっ、でも、そんな事…」 「"そんな事"じゃないよ! ………こんなに、苦しくて、悲しいのに… ………"そんな事"なんかじゃ…ない、よぉ…」 「(ムカ) じゃ、じゃあ!僕だってこんな… 強いタマちゃんが… 守り、たいのに! 何で…」 「………そんなの… グスッ …いらない… 私、」 「そっちだって、"そんなの"じゃないか! 俺だって、」 「ユージくんになんか!」 「タマちゃんになんか!」 「「なりたくなかった!!」」 …うわぁー、これは、さすがに、出て行かないとダメかなあ? 「ゆーじぃ」 「え、栄花くん!?」 (ぱぁん、とユージ(体はタマ)の頬を張るダン) ちょちょちょっと、なんてカッコいいのダンくん! いやいやいや。 『ストーップ!ハイそこまでです。』 『あなた達が何でケンカしてるのかは知らないけど。』 『ケンカするなら、場所を選びなさいっ。お店にご迷惑、かけちゃだめでしょ?』 「「………」」 「……ゴメンね、先、帰る… 宮崎さん、栄花くん、ごめんね。ありがと。」 「僕も、帰るよ… ごめん、ミヤミヤ、栄花くん。」 …ふぅ。そうそう、今日の所は帰りなさい。 『…ダンくん、ありがとうね。カッコよかったよ。』 「ミ~ヤミヤのほうこそ、かぁっこよかったぞ~」 『ダンくんっ…!』 この人が私の彼氏で、ホントに、よかった。 翌日。ユージから事の顛末を聞いた俺達は、一様にこう反応した。 『あやまっとけ。』 「あ~やまんなさ~い」 「あやまった方がいいよ!」 「…まだ、あやまってねえの?(黒)」 「おまぁえが~あやまれぇ。」 「うう… あやまります。」 …(それから一週間後。) …だからって、わざわざ道場をその待ち合わせに使うかぁ? 誰かに吐き出せば解消できる類だったユージの悩みに対し、タマの傷は深かった…のだろう。 他の部員に知られてしまった事もあるし、実際タマは全然道場にも姿を見せていなかった。 それが、ようやく話をつけられたと言うので、今日はここ道場にて謝罪の儀式なのだが、肝心のタマが… 来た。 『ほらほら俺達は出てるぞー』 「「「「え~」」」」 『二人だけにしてやんなきゃ、な?』 渋々ながら全員出払った。じゃあ後は、頼むぞユージ。 「………ユージくん。」 「タマちゃん。 …来てくれてありがとう。」 (ひょっこり、道場裏の格子戸に野次馬5人。) 『(コラッ、お前等、何してんだよ!)』 「(え~だって、やっぱり気になるじゃないですか~)」 「(先生こそこんなトコで隠れて見てるのに!ずーるーいー!)」 …教師たるもの、生徒の管理は当然の権利だ(?) まぁ実際、俺とキリノが撒いた種みたいなもんだしな…当然、気にはなる。 「僕、タマちゃんの気持ち考えずに、自分の事ばっか聞いてもらおうとして。」 「…」 「それどころかすっごい傷付ける様な事まで言っちゃって…」 「……」 「ホントに、どうやって謝っていいのかもわからないけど、ごめん!」 「………いいよ。」 「…許してくれるの?」 「……もともと、許とか、許さない、とかの事じゃ、ないし… あのね、私… あれから一杯考えて。 わからないけど、この気持ちのホントが知りたいの。」 「えっ、それって…」 「……ユージくん、私と、えっと… キス、してくれる?」 「な、な、なんでそうなるの?」 「宮崎さんが…」 !!!! 『(ミヤ~お前なぁ~)』 「(えーっ、だって… 先生はニブいから分からないと思いますけどぉ)」 『(誰がニブいんだよ… ったく! キリノ!お前くっつきすぎだ!見えんだろーが!)』 「(え~いいじゃないっすかぁ~~)」 「「「(それだよ…)」」」 「…ダメ?」 「いや、ええと、ううん… ホントに、僕でいいの?」 「………ユージくんとじゃないと、分からないよ… ううん、こう言う言い方じゃズルイよね。 ………ユージくんが、いいの。」 「…あ、ありがとう。 …じゃあ、えっと。」 「うん…(目を閉じる)」 「…」 「…ん。」 …長い。ユージはともかくタマは知識もないだろうにこの長さはどうだ。 大人のキス。いやいや大人未満の… ユージの方が知ってたのだろう。 とりあえずおぼつかないながら、ずっと、目は閉じたまま、唇を重ねている。 『(オイあいつ等、長くないか?息、止まってるぞ?)』 「「「「(先生ちょっと黙ってて!)」」」」 やっと終わったらしい。 ゆっくり離れていく二人の唇に銀の橋がかかる。 …ん?なんか様子が変だが。 「…ぷは。 …ん?あれ?」 「………ふぅ。 ………あ。」 「もどっ…てる?」 「………戻ってる。」 「やったよ、タマちゃん!」 「………うん。よかった…! …ありがとう、ユージくん。」 「僕の方こそっ… 一杯迷惑かけちゃったのに、そんな…」 「ユージくん…」 だあぁ、そっから先は流石にご法度だ!ヤング誌じゃあるまいし! 『そこまでっ!お前等、神聖な道場を汚すんじゃねえ!』 「こ、コジロー先生!?見てたんすか?」 「「「ちょ~、先生、空気読もうよ~」」」 「!!! ………みんなも、見てたんですか?#」 「いやいやいや、あらら …タマちゃん? …ちょっと、あ、突きは、ダメぇーッ!!」 怒れる大魔神・タマと便乗したユージにフルボッコにされた俺達は 足腰ガクガクのまま自転車で帰ってく二人を見送った。 いや、と言うか、お見送りさせられた。 …その後、下校中のカップルに、このような会話があったかどうかは、定かではない。 「……ねえ、ユージ君。」 「なに、タマちゃん?」 「……私達、サヤ先輩の言ってたお話みたいに、少しは、混ざっちゃったのかなあ。」 「入れ替わって…それから元に戻った事で、記憶が、って言う事?」 「…うん。今、たぶんユージくんと同じ事、考えてると、思うし…… 私ね。」 「待って。」 「…え?」 「それは僕に、先に言わせて?」 「……うん。」 「好きだよ、タマちゃん。」 「……私も、ユージくん。」 「「ふふふっ」」 「じゃあ、またね!」 「…うん、ばいばい!」 [終わり?] ~「その後」の「その後」の、エピソード~ 「ねぇ~?だから言ったじゃん!うまくいったでしょ?あっはっはっは」 …キリノ。こいつは。本当に。どこまで分かってるんだか。 全て終わった後の道場。タマに最も念入りにボコられた俺とキリノは二人だけで道場の壁にへたりこんでいた。 「…ところでコジロー先生、不思議じゃなかったですか?」 『ん?何がだ?』 突如、エンジンが再点火したかのように、表情をイキイキとさせるキリノ。 相変わらずこいつの表情からは何を考えているか読めない。 「ほら~、はじめ、私と先生が入れ替わった時、先生、イヤじゃなかったでしょ? …私も、全然、イヤじゃなかった。」 「サヤの言ってたお話って、ホントなんですよ。意識と意識が入れ替わると、一瞬、お互いの記憶… 記憶、だけじゃなくて、人格やキモチや経験、そんなのが全部、同じになっちゃうの。」 『ちょっと待て、何を言ってるんだお前?』 ついには立ち上がり、手を広げて解説を始めるキリノ。 俺もなんとか、壁を頼りに身体を起こす。 「きっと、タマちゃんとユージくんは、ぶつかった時、どっちか…もしかしたら二人とも、不安だったのかな? だから、あんなに、離れていきそうになっちゃったんですよ。お互いの、心と心が。 それを直す為には、二人が、ホントに結び付く必要があったんですよ~」 『…だあああっ、だから、俺にわかる言葉でしゃべってくれ、お願いだから。』 と言いながら、覗き込めばキリノの目は真剣その物だ。一点の曇りも無い。 俺の身体を回り込むように歩きながら、続けて喋り出す。 「…私達が入れ替わった時、コジロー先生の気持ちが私に溶けて、私の気持ちもコジロー先生に溶けたんですよ。 お互いの… その、”好きだ”って気持ちが、ね? 私… ホントに、嬉しかったんですよ? 本当の本当に… 今でも思い出すだけで、跳び上がっちゃいそうなくらい! コジロー先生も、そうだったはずですよね~? …だから、私達は見た目は変わっても、全然変わらなかったでしょ?」 「サヤは勘違いしてるみたいだけど、サヤの言ってたあの物語って、本当はハッピーエンドなんですよ。 私たちは、最初から、”もとどおりの二人”、だったって事なんですよ!」 『…つまり?』 俺の正面にキリノの身体が来て、向かい合う。 つまりは。 「私たちぃ、トロットロに、相思相愛!相性抜群!って事ですよ、せーんせっ♪」 カカトを少し上げ、静かに目を閉じて、キスを促すキリノ。 ―――ああ、こいつには、一生敵わんな。と、思った。 『しょうがねえなあ…』 作品保管庫
https://w.atwiki.jp/bamboo-blade/pages/68.html
明るい日差しのさす午後、室江高校の武道館。 その女子更衣室では、女の子たちの賑やかな談笑が繰り広げられていた。 「ミヤミヤ、ぶっちゃけて聞くけど、ダンくんとどこまでいったの?」 「…それはどのへんまで答えて欲しいんですか?」 「え、そりゃ~…ねぇサヤ?」 「だね、キリノ」 ふふふ、と笑みを浮かべあう2人に、そんな不躾な質問をされたミヤコは眉をひそめる。 「え~、じゃあ、言いますけど」 「ふんふん」 「…イクとこまでイッちゃいました」 「「うえ―――――!?」」 異口同音で叫ぶ2人に、いよいよミヤコが怒り気味になった。 失礼な、と言うように溜息をつき、ウェーブの掛かった髪を掻き揚げる。 「そっちから聞いてきてなんなんですか、もう。意外とダンくんったらテクニシャンなんですよ…?」 うっとりと「その時」を思い出すかのように頬を赤らめ、ミヤコは言うが、キリノは瞬間手でストップをかけた。 「その先はいいデス……」 「えー、先輩が聞いてきたんじゃないですかー」 「詳しくは聞きたくない、それが野次馬根性ってものだよミヤミヤちゃん」 ―――――と、このように、爽やかに談笑しているのだが、 たまにこうして猥談が発生するのだった。 彼氏もちは(一応)ミヤコだけなのだが、実はキリノも経験済みで、サヤは小説だので、その手の知識は豊富なのだ。 そんな感じで、女子高生である彼女らの間に、自然と猥談が発生するのも、おかしくはない。 そう、1人の例外を除いて。 「遅れました」 細い声と共にドアを開け、入ってくる小柄な少女。 部一番の剣士、川添タマキ。 談笑を楽しんでいた少女達の目線が、一斉にその穢れなき少女へそそがれる。 タマキは別段その視線を気にすることもなく、ロッカーを開けた。 着替え始めるタマキを、キリノたちはそれとなく見る。 小学生と間違われるほどの背丈。 愛らしい童顔。 見事なまでにぺったんこな胸。 腰は全然くびれていないし、ヒップも出ては居ない。 完全なる「幼児体型」を前に、3人はうーん、と唸った。 「……タマちゃんて、したことあるんですかね?」 ひそひそとミヤコが言う。 「それどころか、キスもまだそうだよ」 「ていうか男の子と付き合ったことすらなさそうだよね」 「それは流石に………あるか」 ひそひそと話をしている間に、タマキはさっさと着替えを終えて、とっくのとうに着替え終わっている3人を不思議そうに見た。 「みなさん、行かないんですか?」 「あっ、うん、行く行く!」 サヤが慌てて返事をする……が、キリノはまだ唸っていた。 嫌な予感がして、ミヤコがひきつった笑いを浮かべる。 「…先輩、何考えてんですか?」 「いやね、……タマちゃんにも教えておいたほうがいいんじゃないかな、って」 黒い笑みを浮かべるキリノに、都は慌てふためく。 「で、でもこうなると天然記念物ですよ?きっとまだ、赤ちゃんはコウノトリに運ばれてくるんだと信じてますよ!?だから敢えて知らせる必要は――」 「ねーねータマちゃん、知ってるー?」 「話を聞け―――ッ!!」 いつのまにやらキリノはタマキになにやら吹き込んでいて、ミヤコの叫びは虚しく響いた。 タマキはきょとんとしていたが、徐々になんとも言えない表情になる。ちょっと気の毒。 さらにその猥談にサヤが加わり、ミヤコもしぶしぶ彼女たちに参加した。 「……と、いうことでね。こうして赤ちゃんは出来るんだよ、タマちゃん」 「……え……は……あ………」 「やっぱり知らなかったんだ………」 ミヤコが呆れる。 タマキの顔は既にゆでダコのように真っ赤になっていて、今聞いたばかりの知識に戸惑っているようだ。 と、サヤが続けてタマキに尋ねた。 「タマちゃん、男の子とキスしたことある?」 「えっ!!?……いや……その………あ、あります、けど」 「え!?あるの!?」 キリノが目を輝かせて飛んできた。 (本当にこの部長は……最初はこんなキャラだと思わなかった………) その隣でミヤコが冷たいような呆れたような視線を浴びせているが、気付いていない。 タマキはしどろもどろになり、耳まで赤くしながら、ぼそっと言った。 「………一回だけなら」 「それっていつ?」 「さ、最近です、けど、その」 「誰と誰と?」 「待ってキリノ!当てるから!!」 サヤがキリノを押しのけて、考える人のポーズを取る。 考える事数秒、ぱちんと指を鳴らし、「これだ!」と叫んだ。 「ユージくんでしょ!」 と、その瞬間、タマキの紅潮は耳まで達した。 ……どうやら、図星らしい。 その、絵に描いたようなウブな反応に、思わずキリノ達はきゅん、とした。 ああ、なんて青春!でもこれって、 (*1)) タマキを除いた、その場全員の心の声が合致する。 「しかし、全然気付かなかったよ、2人が付き合ってたの」 「言ってくれればよかったのに」 「なんか恥ずかしくて………」 「(うっは青春!)………で、キスまでしかいってないの?その先は?」 心の中でタマキの清純にリアクションを取ってから、ミヤコが本腰を入れる。 ――――今までの会話から、ミヤコが他人の色恋に興味がないと思われるだろうが、そうではない。 確かに色恋には興味は無いが、その先の、いわゆる猥談には、この中で誰よりも首を突っ込みたがるのだ。 タマキが知ってしまったというのなら、もうとことん突き詰めるドS。 「その先?」 「だから、エッチ。…あ、してないわね、そっか、知らなかったんだもんね」 「わー、ミヤミヤ大胆に聞くね~」 のほほんと言うキリノと正反対に、タマキは面白いほど動揺する。 「え、え、え、え、えっち!?み、宮崎さ、そんな、こと!」 「普通だよ。……たぶん。キリノ先輩だって、したことあるんだし」 「誰とやったのか、は教えてくれないけどね」 サヤがちょっとだけ恨めしそうにキリノを見ると、彼女はあからさまに顔を逸らす。 普通してはいけない人としたのか、それとも単に恥ずかしいだけなのかは、判別できない。 と、それをほっといて、ミヤコがあきれ果てた顔をした。 「う~ん、高校生として、それはどうかな~。そういう話もしたことないんでしょ」 タマキはもはや声を出せず、ただこくこくと頷いている。 「………まぁ、いいんじゃない?これからこれから。暫くはこのままでさ」 言いながら、サヤはミヤコの肩をぽんぽんと叩いた。ミヤコはちょっと不服そうな顔をする。 「でも、それじゃ、相手もちょっとかわいそうじゃありません?女はいいけど、男は定期的に発散しないと駄目なんですから」 何気に爆弾発言だ。 さっきから、ミヤコの一言一言に、タマキは赤面しつづけている。 (男の人って………そうなんだ………) 「ま、千里の道も一歩から、だよ」 そう言うキリノは何時の間にか手にポーチを持っていて、その中から何か取り出し、タマキの手に握らせた。 タマキがきょとんとしてそれを見る。 「?これ、なんですか?」 「コンドーム。避妊道具だよ。聞いたことはあるでしょ?」 「はあ………」 「エッチする時は、それつけてもらわなきゃ駄目だよ、タマちゃん。自分の為にも、ユージくんのためにもね」 「………はい」 タマキはやっと顔を上げて、諭すように言う先輩の目を見て、そう返事した。 なんだかよくわからないけれど、これは必要なものなんだ、と、タマキはロッカーの中にそれを放り込んだ。 「どうしたの、タマちゃん」 ぼんやりと部活の時のことを考えていたタマキは、不意にそう話し掛けられて、思わず自転車のバランスを崩しかけた。 「あ、うん、なんでもない!」 「そう?……何か今日、一日中様子が変だと思って。俺、何かした?」 「違っ、ユージくんは悪くないよ」 タマキは慌てて、付き合い始めてまだ日も浅いが、れっきとした彼氏―――ユージを見た。 幼馴染から、恋人へ移行するのは簡単で、付き合い方もほぼ変わらない。 だけどそれは、今まで自分が無知だったからなのではないか、と、タマキは昼間から悩みつづけていた。 テレビアニメとかでも、恋人はキスしたり抱きあったりするものであって(だからキスはよどみなく出来た)、決して、――――今日、3人に教わった事をするものではなかった。 それは自分が幼稚だから、そう思うのかもしれない。 (もしかしたらあたしは、間違った付き合い方をしているのかもしれないんだ) 落ち込んで、はあ、と溜息を付いてから、まだ心配そうにこちらを見ているユージを見上げた。 (…ユージくんも、そういうこと、考えてるのかな) 不意にそんな思いが過ぎって、ポケットの中に手を入れて、コンドームを弄ぶ。 なら、渡しておいた方がいいのかな、と思い立ったけれど、なんとなくはばかられて、結局握り締めただけに終わった。 こんな白昼堂々出すものじゃないだろうし、恥ずかしかったのだ。 「……タマちゃん?俺の顔になんかついてる?」 そう言われて、タマキはようやっと、自分が彼の顔を凝視していたことを思い出した。 「ご、ごめんユージくん、なんでもない」 「……ねえ、何か隠してるでしょ?」 ユージが怪訝そうに、しかし心配そうに眉をひそめて、タマキは慌ててポケットから手を出し、胸の前で振った。 「べつに、なにもないよ!」 しかしそう言ったとき、ユージの視線は、地面に向いていた。 否、タマキが手を出した時ポケットから落ちた、今は地面にある、―――避妊道具、に。 最も一般的なモノであろうコンドームが、ユージの視界に入っていた。 「た…………タマ、ちゃん、それ………」 「え?」 ユージに指さされ、タマキも地面を見る。 一瞬、硬直。 (!!!!!) 心の中で声にならない叫びをあげて、タマキはそれを光の速さで拾って、もとの場所、すなわち制服のポケットにしまいこんだ。 どっくんどっくんと、ありえないほど心臓が高鳴っている。 (どうしよう、見られて……うう、どうしよう………) 性について全く知識がなかったタマキでも、避妊道具を彼氏に見られることは(しかも不意に)、こう、「誘っている」ようで、恥ずかしくて仕方が無かった。 恐る恐る見ると、――――予想通り、ユージも顔を赤くして、視線を泳がせている。 (やっぱり見られて………!) 「あ、あの、違うの!これは今日キリノ先輩に貰って、その、別に誘ってるわけじゃ………」 「誘っ!?」 「あ、う!」 説明をしようとして盛大に墓穴を掘ってしまい、タマキは慌てて両手で口を押さえる。 そして自転車を支えていた手も口に回って、必然的に、自転車は見事に倒れてしまった。 夕焼けの商店街に、ガシャンと盛大な音が響いた。 「ごめんなさい……なんか取り乱して…」 「いや、いいんだけど……その…」 近くの公園で自転車を止めて、2人は並んでベンチに座っていた。 ありえないほど気まずい空気が流れている。 ―――と、近くの茂みが、がさごそと揺れた。 ひょこっと顔を出すのは、ポニーテールが特徴的な、室江高校剣道部部長。 しかしお互いの間に流れる空気でいっぱいいっぱいなタマキとユージは、茂みが音をたてたのにも、キリノが顔を出したのにも気付かない。 もちろん彼女の後ろに、あと3人が隠れているのにも、気付くはずもなかった。 「う~ん、やっぱり気まずくなっちゃってるねぇ」 「あたしたちの所為かな……タマちゃんに色々吹き込んじゃったし」 「でも、まあ、知ってて当然の知識ですし、いいんじゃないですかね」 「ミヤミヤ~帰ろうよ~」 剣道部が狭い茂みに勢ぞろいしていて、散歩中の野良犬がばうわうと吠える。 キリノはそれをしっしっと追い払ってから、また、付き合いたての初々しいカップルを覗き見た。 「……話す気配が微塵も無いね」 「でもここが2人の正念場だ!あたしたちは影で応援するしか…!」 くうっ、とサヤが拳を握り締めるが、反対にミヤコは冷めたもので、 「やっぱあたし帰りますね。覗きは趣味じゃないんで」 と言って、ダンの手を取ってさっさと行ってしまおうとしている。 「ああっ、待ってよミヤミヤ~!2人が心配じゃないのかい?」 「心配と言っても、2人の問題じゃないですか。あたし達が入る隙間なんて…」 「ミヤミヤ~、今日はするって言ったじゃないか~」 くいくい、とミヤコのスカートの裾をひっぱり、ダンが不機嫌そうに言う。すると彼女はころっと表情を変えた。 「ごめんね~、ダンくん。今日はたっぷりご奉仕してあげるから♪…じゃ、そういうことでさようなら先輩方!」 早口に言い、颯爽と自転車にまたがると、引き止める間も無いほどのすさまじいスピードで去っていくバカップル。 キリノとサヤは、ただそのドぎついピンク色の空気を感じながら、お互い顔を見合わせて、時間差でツッコんだ。 「あの2人、日常的にやってんの!!?」 叫んだ瞬間、向こうの方で声がした。 「どうしたの、ユージくん」 「いや、今先輩たちの声がしたような気がして……」 (やばっ!) 二年生コンビはすかさず身を伏せる。 幸いしつこく探そうとは思わなかったのか、しばらくしてユージの「気のせいかな」という声が聞こえてきた。 そこで2人は再び顔を見合わせる。 「…帰ろうか」 「そうだね…」 2組のカップルを前に、現在(多分)彼氏のいない二人は、妙に寂しくなって、とぼともと夕日を背に歩いていった。 結局なんのために出てきたのか解らないまま、部外者はすべて退場したのであった。 夕暮れの公園には親子連れが多い。 自分たちの眼前で転がるように戯れる幼子達を眺め、ユージはただひたすら、なんと切り出そうかを考えていた。 それはタマキも同じで、しきりに手遊びをしている。 「………」 「………」 沈黙。 まだ、沈黙。 タマキは意を決する。 「…………あの、ユージくん、は」 「はいっ!」 思わず背筋を伸ばすユージにタマキはちょっと笑いそうになるが、さすがにそこまで余裕はない。 俯いて、深呼吸して、―――聞かなければならないことを、聞いた。 「……え、え、ェッチとか、…よく、知ってるの?」 「うん、うえ、ええ!?」 思いも寄らない質問に、ユージは妙な声を出してしまう。 実の所、ユージもよく知らなかった。 中学時代部活の先輩にそういうことは聞かされていたけれども、勿論今までに実体験したことなどないし、写真とかで見たことしかない。 俗に言うエロ本とかで見たことしかないのだ。―――そんな、レベルだった。 それを「よく知っている」と言っていいものか。 (そもそもどのくらいが「熟知」って言うんだ?色々と出来る事か?) でもまあ、多分彼女が求めているのは、「一般常識的に」知っているかどうかだと思うから……と、ユージはぐっと唇を噛んで、やっと言葉を捻り出した。 「……一応……知ってるよ。そりゃ、俺だってほら、高校生男子だし」 「…あたしね、今日まで、知らなかった」 一瞬、反応が、遅れる。 「……え!?そ、そうなの!?」 ようやく驚愕の叫びを放ち、思わずタマキを見ると、彼女は耳まで赤くして、微かに頷いていた。 ぽつり、ぽつりと呟く。 「……今日、先輩達に教えられて……それで、……意識したの。あたし今まで、『付き合う』ってことが、……そんなに深いことだなんて、知らなかったから」 「………そう、だったんだ」 「だから、上手く喋れなくて………そう、アレも、その、貰ったもので」 かあっと更に赤面し、タマキが俯く。 つられてユージも更に更に赤面してしまう。 「…で、でもさ、タマちゃん、実は俺もそんなに知らないししたこともないし」 「したことないの?ユージくんも?」 自ら童貞であることを露呈したユージ。 一瞬意識が固まったが、何とか戻って来る。 「……うん……」 「そうなんだ……あたしもなんだけど、どういう感じ、なんだろうね?」 「何が?」 「………する、って」 「……あー………」 「…………」 「…………」 次第に会話がなくなっていき、再び沈黙。 (でも) ユージは思わず、感心してしまう。 今までアニメや特撮ばかり見て、剣道一筋で恋愛などに興味も示さなかったタマキが、男女の営みについて知りたがっている。 基本的なことは教えられたらしい。基本的なこと、つまり、子作りの方法。 ――――例えれば、飛行機が飛行場に着陸して、乗客が降り、飛行場の施設に入るということだ。比喩で言うと。 間違ってもフェラやクンニなどの、性におけるテクニックは教えてもらってないだろう。 ユージは何気に知っていた。タマキとは違い、彼は社交的だったからだ。 何もしないでも、猥談が耳に入ってくる場所にいた。 (でもタマちゃんは、何も知らない。―――今日知ったばかりだし、…身体だって) ちらりと、タマキの身体を見る。 彼氏ながら、その幼児体型には、残念ながら頭が痛い。 なんだかセックスをするだけでも痛々しいとか、考えてしまうのだ。 (まだ、早いよなあ) 「タマちゃん」 「っ、なに?」 「タマちゃんはさ、したいとか、思う?」 思考の淵から戻ってきたばかりで、ユージはさらりと言ってしまった。 言ったあとに急に恥ずかしさがこみ上げてきて、やばい、と思った。 ヤる気満々に思われそうで、ユージは内心青ざめていたが、 「……ゆ」 と、タマキが赤くなりながら、こちらを見てきた。 「……ユージ、くん、と、……って、こと?」 上目遣い。 唇に手が添えられている。赤みのさす頬。 これでムラムラとしない男がいたら、会ってみたい。 ユージは自らの欲情を押さえるために、ベンチの背もたれに頭をぶつけた。 「ゆっ、ユージくん?どうしたのっ!?」 「ごめんなんでもない……」 正直今にでも襲い掛かりそうだったが、頭の痛さにすうっと冷静になってくる。 しかし頭は冷静になっても、身体は正直だ。 既に一物は反応し始めている。 (それは反則だよ、タマちゃん………) さっき「まだ早い」と思った数分前の自分をぶん殴りたい。彼女はもう充分に、男を惹きつける魅力を持っているではないか。天然だが。 少なくとも健全な思春期の少年を元気にさせるだけの力はある。 もともと外見的にも、彼女は可愛いのだし。 ――それらの思考を片付けて、とりあえず落ち着いて、 「……うん、まあ、そうだね」 と、先ほどの問いに答えた。 タマキはユージの奇行に驚いていたが、また照れたように居住まいを正した。 真っ赤な顔の、真っ赤な小さい唇から、言葉が発せられる。 「……したいよ」 「わー!!」 「ゆ、ユージくん!?」 「ごめんなんでもない気にしないで!」 今度は咄嗟にベンチから走り出し、10mくらい離れたユージ。 これくらいしないと理性を保てない。 (落ち着け俺、タマちゃんにそんな気はない、冷静になれ………) と心の内で呟くユージは、完全に変質者だった。 砂場で遊ぶ子供の視線が痛い。そう思いながら、ベンチに引き返す。 「…俺も、………したいけど、でも」 「まだ、早い?」 「うん、そう思う」 きっぱりと頷く。よし、大分耐性がついてきた。 するとタマキは、考え込むように俯いた。 「そっか、………まだ、早いんだ」 その声がちょっとしょんぼりしていたのは、気のせいじゃない。 タマキが結構大胆だったことに驚きを隠せないが、男として、ユージはちょっと嬉しかった。 これから暫く、相当の間、何もしないのを覚悟していたから。 だから、しょんぼりしているタマキに、逆に申し訳なく思った。 いざとなったら、自分はなにも出来ないのかと。 (でも流石にいきなりはな………) ふと、タマキを見る。 またその唇に、手が添えられていた。 (唇?) ふと、この前やっとキスにこぎつけたことを思い出す。 それと同時に、最も簡単な性行為を、思い出した。 「タマちゃん!」 「はいっ!?」 がしっと彼女の肩を掴み、ユージは意を決する。 「………キス、しよう」 ぼんっと、小さな彼女の顔が赤くなった。 「き、キス?い、い、いいけど………」 「………いや」 首を横に振り、ユージは恥ずかしさを全開に感じながら、その「最も簡単な性行為」の名を、口にした。 「……大人のキス、っていうか、……ディープキス。知ってるよね?」 「おとな」 ―――瞬時にタマキの脳内で、深夜にうっかり見た洋画のワンシーンが再生される。 二人の男女が身体を寄せ合い絡め合い、ゆっくりと唇を重ね、ねっとりと舌を重ねる。 数分に及ぶディープキスシーンの間、タマキは呆然としていたのだった。 その時は自分がするだなんて微塵も思わなかった。大人のものだと思っていた。 けど、もう、 (………高校生なんだ) そう、男で年上で経験者になら突き(アトミックファイヤーブレード)をかましていい年齢…じゃなくて。 性行為をすることが許されてくる年齢。だから先輩達にも教えられたんだ。 「………やっぱ、いや?」 ユージが心配そうに尋ねてきて、タマキは我に返った。 同時にユージの顔を直視して、あのキスシーンと重ねる。 ―――――千里の道も、一歩からだよ! キリノの言葉が浮かんでくる。 ―――――相手もちょっとかわいそうじゃありません? ミヤコの言葉が思い返される。 そして、タマキの思いが再確認される。 あたしは、ユージくんが好きだ。大事だ。何かしてあげたいくらい。 「………いやじゃ、ないよ」 タマキは赤面し、伏し目がちになりながらも、ようやっとそう返事をした。 それでまたユージが悶えたのは、言うまでもない。 子供の目があってやりづらいということで、二人は公園の近くの林に入った。 夕闇も近づいて来た所為もあって、ここなら誰にも見られることはない。 すーはーと、お互いに深呼吸。 こんな風に改まってキスをするカップルがいるだろうか?ここにいた。 深呼吸も終わり、二人はざっと向き合う。 まるでこれから剣道の試合でも始めるのかと言うくらい、気合に満ちた表情だった。 根本的に間違っていると指摘してくれる人もおらず、その生真面目カップルは、これから大人の世界に踏み込もうとしている(入り口だが)。 「……じゃ、いくよ」 「ん」 ユージがタマキの肩に手をかけて、タマキが微かに顎を上げ、目を閉じる。 タマキの背はユージよりも、下手すると20センチ位低い。 必然的にタマキが背伸びをして、ユージが屈む姿勢になる。キリノやサヤがいたら、初々しい!と叫ぶところだろう。 しかし、その林は、夕闇の静けさに満ちている。 自分の心臓の音と、相手の息遣いだけが聞こえていた。 ユージは意を決して、目を閉じた。 ――――そして、二度目となるキスを果たす。 お互いの息がかかり、相変わらず変な感覚だ。でも不思議と嫌ではない感覚。 だが今回はそれだけで終わらない。 やはり彼氏が先導するものなのかと思い、ユージは、他人の口内という未知の領域に、舌を侵入させた。 タマキがびくっと震える。 しかしぴったりと密着したままの身体と唇は離れない。 ようやく、ユージの舌が、タマキの舌を捉えた。 (これで、いいのかな) 「……っは」 と、タマキが苦しそうに息継ぎをした。その息には、今まで聞いたことのないような、「女」の声も僅かに混じっていた。 ユージはユージで、健全な彼のソレが、早くも反応し始めている。 なるほどコレはかなり実際の「性行為」に近いのだろう。 ユージは味をしめて、その上慣れてきて、彼女の歯茎にまで舌を這わせる。 「んんっ……」 タマキも妙な感覚だった。―――その妙な感覚は、口の周りだけに留まらない。 (……なに………これ……) 彼女の女の証は、湿り気を帯びてきていた。 (…これ…気持ちいい…………の?) そんな感情が浮かんだが、恥ずかしいと瞬時に思う。 が、身体は正直で、ふらりと足がよろけた。反射的に、ユージの背中に手を回す。 瞬時にユージが驚いて、びくっと身体を震わせる。 一瞬唇が離れて、お互いが息を吸う。 それで終わりかと思われたが、今度は、タマキがユージの唇に吸い付いた。 「んんっ!?」 驚きの声が、塞がれた口の中から漏れる。 攻守一転。タマキがユージを攻める番だ。 (まだ終わらせたくない) タマキは自然と、そう思った。 それが行動にでたのだろう、彼女は先程よりも激しく、彼の口内を弄り始めた。 舌が絡む。歯茎を探る。 上あごを舐めると、肩を掴むユージの手に力が篭った。 自分で舐めるとくすぐったいだけだが、他人に舐められるだけで、全く別の感覚がわいてくるのは、不思議な事だ。 二人はまさしく、快感を貪っていた。 しかし段々と、慣れていないものだから、酸欠で頭がくらくらしてくる。 (そろそろ、終わりかな………でも) さっきからユージは何もしていない。ただタマキに弄られているだけ。その証に、もう息子が痛いくらい制服のズボンを押し上げている。 それをちょっと悔しく思い、彼は最後の足掻きと言わんばかりに、タマキの口内に侵入した。 「んぅ!」 タマキがくぐもった嬌声をあげる。 調子付いて、ユージは更に彼女の性感帯を弄った。 タマキも負けじと絡ませる。 もはやどちらが攻めでどちらが守りなどと考えてなどいられない。 だんだんと、ユージが躍起になって守り通そうとしていた理性が、吹っ飛んでいく。 タマキは今までに感じた事のない粘り気を秘部に感じ、けれど同時に高揚感も感じた。 (…すごい、これ……すごく……気持ちいい……) (こんな感じなのか……すごい………) 二人の感覚が同じになり、―――拙いながらも、二人は交わっていた。 お互い息を荒くしながら、抱きしめあう。 最後の仕上げに掛かろうとした―――――が、その時。 どさっと、何か重い物が落ちた音がした。 そして、聞き覚えのある声。 「お………お前ら、何してんだ……」 それは間違いなく、 (え―――――こ、コジロー先生っ!!?) 「「!!!」」 ばっと二人が瞬時に離れる。お互いがお互いの汗やら唾液やらで濡れて、顔はぐしゃぐしゃだった。 やっとまともに呼吸をしながら、二人は突然の乱入者―――驚きと照れで顔を赤くしているコジローを見やった。 「こ、コジロー先生、何でここにいるんすか!?」 「ん、んなこたーどうでもいいだろ!!」 口の周りを拭きながらユージが言うと、同時にコジローは、さっきの音の主であるビニール袋を拾って後ろ手に隠した。 そして、 「お前らこんな暗がりで何してると思ったら………ていうかお前らそういう関係かよ!?」 「え………ええ、まあ」 二人が顔を見合わせて、照れたように笑う。 それを見て、コジローの背後で「ぴきっ」という音がした。 (何か今すげえむかついたぞ……) 「と、とにかくな!そういうことは外でやるもんじゃねーだろ。家の中とかでやれ!」 「でも、ここ、誰も来ないって評判の林で………現に先生以外来てないですし……」 タマキが顔を赤らめながら言う。 ユージもそうそう、と同意した。 「そうですよ先生、……というか……見て見ぬふりくらい………」 ユージが真っ赤になって、がくんと肩を落とした。 「す………すまん。……じゃ、ごゆっくり………」 「あの、先生、………不純異性交遊とかで停学とかにならないんですか?」 去ろうとするコジローに、タマキがおずおずと尋ねたが、彼はそれを笑い飛ばした。 「ははは、キスくらいでそんなのなんねーよ。最後までやってんのを見られたら、話は別だけどな。……それに俺も人のこと…」 「は?」 「いっ、いや!何でも無ぇよ!」 はははと誤魔化し笑いをするコジロー。二人は同時に「怪しい」と思った。 と、その時、あたふたと立ち去ろうとするコジローのポケットから、ひらりと一枚の紙が舞い落ちる。 その紙を拾うユージ。 「先生、何か落ちまし………」 言いかけた言葉が止まった。隣でそれを見るタマキも、固まっている。 と、呼び止められたコジローが、心底慌てふためいた様子で、 「うわああああああ!!」 と叫びながらその紙を引ったくった。 しかし最早、その紙になにか書かれていること、なにが書かれていることを、二人は知ってしまった。 紙には、こうあった。 『先生、この前はどうも!いや~、まさか先生があんなに上手いとは思ってなかったですよ!あたしも久々に大満足です。もちろん性的な意味で。 また今度しましょうね。今度はあたしも頑張りますから!! PS.そういえば○□公園の近くの林には、山菜とかあるんすよ。食料に困ったら採ってみたらどうですか?(笑) あなたのキリノよりv』 「……そう言えばキリノ先輩が相手の人教えてくれないって、サヤ先輩が……」 「先生と生徒じゃ言えないよね………」 「ちちちがああああう!」 コジローがカクカクと妙な動きをしつつ、必死に否定した。 「どこにもヤったなんて書いてないだろ!」 「あれ今、俺たち、二人が性的な関係を持ってるって言いませんでしたけど」 「しまった―――――ッ!!」 大袈裟に頭を抱えて叫ぶコジロー。確かに叫びたくもなるかもしれない。 彼らの方がよっぽど不純異性交遊だ。さっき言っていた事はこれだったのか。 「でも先生………駄目な大人だとは思ってましたけど、生徒に手を出すなんて、そこまで駄目とは………」 ユージがそう言ってヒいている隣で、タマキも少しヒいているようで、汗をかいていた。 コジローが頭を抱えつつ、 「アイツの方からその………来たんだよ!ユージだって男なんだから解るだろ!?押さえきれないっつー………っていうか何だ駄目な大人って!お前俺のことそんな風に思ってたのか!?」 コジローが叫んだ。 実は最初の賭けの話を聞いた時点で決めてました、とは流石に言えずに、ユージは、コジローの手に持たれたビニール袋を見る。 「じゃ、それ山菜ですか?」 「本当に採っちゃったんだ………」 「タマまでヒかないでくれ!今月やばいんだよ!」 「いや別にヒいて………ません…けど……」 「(確実にヒいてる!)と、とにかく、頼むこのことは………」 ぱんっと両手を合わせて、拝むように懇願する部活の顧問。 二人は顔を見合わせて、ちょっと噴出しそうになるのを堪えた。 「まあ言いませんけど」 「言いません。キリノ先輩も隠したいようだったし」 「助かる!恩に切る!!…礼としてこの山菜を」 「いりません」 差し出された山菜をびしっと断り、ユージはふうと溜息をつく。 しかし随分と長い間していたらしく、夕闇は夜の闇に変わりつつあった。 「そろそろ帰ろうか、タマちゃん」 「そうだね。――――あ、先生、…その、あたしたちの事も……」 「ああ、言わねーよ。ていうか付き合ってたことに驚きだ。気ィつけて帰れな」 背中を向けて手を振るコジローを見送ってから、二人はまた顔を見合わせる。 ユージが苦笑して、 「何か途中で終わっちゃったね」 「うん。………でも」 タマキが顔を赤らめ、自らの唇に触れる。 「………気持ちよかった……かな………」 「………ん、俺も」 「………ね、ユージくん」 「なに?」 「今度、また、しようね」 タマキが微笑んで、そう言った。 ユージはまたもや、うっかり理性を失いそうになった。 (あー、先生の言った通りだな。…だらしないな、俺も) しかし、反面教師の顔を思い浮かべて、ぐっと堪えて彼女に笑顔を向ける。 「うん、また」 それから、数日後。 相変わらず室江高校剣道部の女子更衣室は賑やかだった。 鼻歌を歌いながら着替えるキリノに、サヤがじとっとした目で見る。 「ねーキリノぉ、教えてよ、初めての人!気になるんだよー!」 「だーめ!……じゃ、サヤに彼氏が出来たら教えてあげよっか?」 「えー!?あたしにィ?」 「あんたなら割と早く出来そうですけどね、巨乳だし」 ミヤコが自分のと比べて、はんっと鼻で笑いながら言い捨てる。 サヤはうう、と唸った。 「そんな身体目的の彼氏いらないし……」 「がんば、サヤ!」 キリノがエールを送ったその時、更衣室の扉ががちゃりと開いた。 「遅れました」 「あ、タマちゃんだー」 「タマちゃん最近遅いけど、掃除当番?」 「うん」 ミヤコの問いに頷いてから、タマキはロッカーを開ける。 そこではた、と、ミヤコは、彼女の変化に気がついた。 首筋になにやら、赤い痣がついているのだ。制服のボタンを外しているせいか、それが露出している。 「…タマちゃん」 「なに?宮崎さん」 「したの?」 タマキの手から、ぼろっと胴衣が落ちた。 解り易く顔を真っ赤にして、タマキは動揺する。 「なっ、何を!?」 「エッチ」 「し、してないです!まだ!」 「でもキスマークあるよ?バンソーコあげるから隠しておきな」 「ええっキスマーク!!?」 サヤが飛び出してきて、タマキの首の付け根辺りをまじまじと見る。 なるほどそこには確かに、小さな赤い痣がぽつりと出来ていた。 「うわぁ本当だ!じゃ、ヤっちゃったの!?」 「ヤってません!…その、キスだけです、まだ」 かわいそうに耳まで真っ赤に染めて、タマキは慌ててその印を隠した。 これはあのキスから数日後、「色々やってみよう」というお互いの合意のもと、つけてもらったキスマークだった。 と、キリノが着替え終わって、タマキの頭を撫でに来た。 なでなでと小さい頭を撫でて、キリノは笑う。 「や~、順調みたいだね、タマちゃん」 「は、はあ………」 (キリノ先輩は先生と………) 最後までやっちゃってるんだ、と、あの日から彼女を見るたびに思ってしまう。 でも、好きな人を明かせない事は、結構辛いのではないかとも、考えてしまうのだ。 ふと、キリノと目が合う。 するとキリノは、タマキの耳元に顔を近づけた。 「ひ・み・つ、だからね、タマちゃん。そのうちあたしも、サヤとかにも言うつもりだけど」 「え?」 突然の耳打ち。見るとキリノは、口に人差し指を当てて、「しー」と言っていた。 そのうち言うんですか、と言おうとして、やめる。 (……大人だなぁ、キリノ先輩) そんな言葉が不意に浮かんできて、タマキもつられて「しー」とやった。 よしよしとまた頭を撫でて、キリノはサヤの方を見る。 「サヤ、着替え終わった?あたし行くよー」 「あ、待ってよキリノ!」 「タマちゃん、あたしたち先に出てるね」 「はい」 ぱたん、と扉が閉められる。 誰もいなくなって、タマキは、小さなポーチに入れたコンドームを取り出した。 ――――自分のために、相手のために。 キリノの言葉が思い出されて、 (今ならちょっと、解る気がする) タマキは笑って、それを握り締めた。 室江高校剣道部には、三組のカップルがいる。 その内の二組は、経験済み。 そしてその中の一組は、秘密のカップル。 もう一つのカップルが経験に至るまで、まだまだ時間がかかりそうだ。 終わり
https://w.atwiki.jp/bamboo-couple/pages/827.html
452 名前:勝手に手直し[sage ごめん] 投稿日:2009/02/05(木) 15 30 59 ID AcIhNjU2 /γ"'´⌒/ヽ |イミ(リ从)) | コジロー レノ从 ゚ヮ゚ノV 先生の /j 芥 ⊃ スレも宜しく ` /」」〉 ヒヒi /γ"'´⌒/ヽ |イミ(リ从)) | ゲームが レノ从 ~ヮ゚ノV 出たら /j 芥 ⊃ 迷わず ` /」」〉 買ってね~ ヒヒi /γ"'´⌒/ヽ |イミ(リ从)) y") じゃっ レノ从^ヮ^ノ// ばいば~い /j 芥 " ` /」」〉 ヒヒi|| ササッ|)彡|||
https://w.atwiki.jp/bamboo-couple/pages/257.html
572 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/02/09(土) 04 14 49 ID GNlcg+jn 上の剣道部=家族の話してたあたりで思ったんだけど、 もしもコジローがタマ入部でも覚醒せず、ダメ教師のままだったら… きりのんがものすんげえ可哀想な事になってたような気がした。 と言うわけで以下そんな感じの妄想。 ……… 「い~んだよ部活なんて面白おかしく適当にやれてりゃ。 あ、俺今日ちょっと用事あるんで剣道部ちゃんと、やっといてくれな?」 「も~またっすかあ?どうせ今日も先輩と飲みいくとか吉河先生とゲームしたりそんなんじゃ」 「ば、バッカ、ちげーよ!!用事…そう用事だよ!そんじゃな!」 「あっ…もう!」 あたしが部長になって、もう半年が経とうとしている。 なのにこの部は、まだ何の実績も得られてない。 「キリノ先輩…今日も先生は?」 「ユージくん…うん、ダメ。来られないって」 「そうっすか…」 「…あはは、それにしても殺風景だねえ、ここの道場は」 道場の壁は見事にキレイさっぱり掃除されていて、飾る賞状の一枚も無い状態だ。 タマちゃんや皆が入部してくれて、一瞬変わったかに見えたコジロー先生は、でもすぐに元のダメ教師に戻ってしまった。 サヤも復帰してから最初の内は熱心に道場に来てくれてたけど、最近はまた相変わらずの悪癖が顔を出したか、姿を見せない。 ユージくんとダンくんにミヤミヤ、タマちゃんと、後から入部してくれたさとりんも真面目にやってくれてるのに… 肝心の部長のあたしが、この子達を試合に出してあげられない状況を生んでいるのが辛い。 コジロー先生の舵取りを上手くやれないあたしが悪いんだ… 「キリノ先輩、次の練習試合の事とか、先生は…」 「うぅん、なぁんにも。任せる、って…」 ツテも何にも無いあたしじゃ、練習試合なんて組もうにも限界がある。 大会に出るのだって、勿論手続きが必要だ。でも肝心の先生がアレじゃあ… おかげで大きな目標も見つけられずに、折角みんな才能があるのに それを磨く機会を与えてあげられないまま、ただ、だらだらと時間を過ごしてしまった。 全部あたしの責任、なんだよね… 「…先輩、ちょっと話があるんですけど…」 慙愧の念に駆られていると、 それまで普通のトーンであたしとお話していたユージくんがやけに深刻な表情をして、立っていた。 ……… 「…卓球部?」 「ええ、だから卓球上手なキリノ先輩もできたら一緒にって…」 ユージ君の話はこうだ。 ユージ君の説得で剣道を続けてくれてたダンくんだったけど、 そろそろ自分の好きな卓球をやってみたいから自分で卓球部を作ろう、という話になって。 そして一年生のみんなも、剣道部は一旦置いて、そっちに協力するのがもう決まっているらしい。 懇意にしてくれる、熱心な顧問の先生も見付けてて、何でもさとりんのクラスの副担任なんだとか。 ユージ君は最後まで剣道を続けたかったそうだけど、それは川添道場でも出来るし、何より… 「…それに、こんな所に居ても、何も出来ませんよ、キリノ先輩だって…」 その言葉が胸に突き刺さる。 自分がこれまでこの子等に何をして来たか、何をしてこなかったか。 今のこれは、その痛いしっぺ返しを受けているのだと。そんな風にしか、理解できなかった。 でも、今のあたしには、差し伸べられた暖かい手を取る資格は無いし、何よりも。 「…ごめんね、あたし剣道、好きだから」 ……… 「えいっ!」 「てえぃっ!」 「たぁっ!」 こうしてまた、今度はついに一人きりになった道場に、相手の無い素振りの掛け声が響く。 4月から半年が経ち、もう季節も寒くなりかかる初秋の道場で、 目標もなく、従って理由もなく、あたしはひたすら竹刀を振り続ける。 「剣が何かを教えてくれる」だとかの境地は分からないけど、他にする事も見つからない。 ただ、こうして竹刀を振り下ろすたび、一瞬でも楽しかったあの春先の頃が記憶として甦る気がして。 そんな日が更に何日か続いたある日。その突然の来訪者はけたたましい足音と共にやって来た。 「…こんちゃーすっ!!あれ?キリノひとり?」 「サヤ!?どーしたの?」 「うん久々に剣道やろっかなーってねー …どしたの?」 来訪者―――サヤにこれまでの一部始終を話す。 「そっか…そりゃ大変だったね、キリノ。ご苦労様」 「ううん、全部あたしが悪いんだし…いいんだよ。 今は、サヤが戻って来てくれただけでもよしとしなくちゃ」 「あたしは、オマケかい…」 「えーっ、そんなつもりじゃないのになあ?ふふ」 久々に交わす、親友との取り止めの無い会話に思わず心が緩む。 嬉しさに思わず泣き出しそうになる気持ちを抑えて。 「ねーサヤ、じゃあ早速稽古しよう!勝負だよ勝負!」 「おーっ久々の実戦だねえ、いいねぇ~」 サヤが倉庫の奥にある自分の防具を引っ張り出す。 あっという間に防具をつけ終わり、正対し、いざ勝負! 「メーーンッ!!小手っ!どぉっ!小手ェッ!!」 「ちょ、ちょっとストップ!キリノぉ!?あたし、ブランクあるんだから手加減してよ~」 「へへへぇ、サボってる方が悪いもんねっ!」 「むきぃぃぃ、もう絶対サボらないよ、キリノに勝つまでは!」 「…そうだよ!ずっと一緒にいてよね!?」 「それって、負けないって事!?くっそぉ~絶対勝ってやるっ!」 ――――うん、大丈夫。 もし、また一人だけになってしまっても。 サヤがいつか帰って来てくれて、こうして一緒に練習できるなら。 取り敢えずは、それがあたしにとっての剣道部って事で、あたしは大丈夫。 「たははは…つくづく、”待つ女”って奴なのかもねえ、あたしゃ」 一人ごちるあたしを訝しげに覗き込むサヤ。 「ん?キリノ、松がどうかした…??」 「何でもない何でもない…よ~しもう一本いくよお!」 「おおぅっ!」 終わる
https://w.atwiki.jp/bamboo-couple/pages/28.html
209 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2007/12/05(水) 16 32 27 ID sFFxN9La ユーキリがもし万が一あるとしても10年後とかかなあ。偶然飲み屋で再会とかで。 222 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2007/12/05(水) 21 03 23 ID sFFxN9La なんとなく、 209のユーキリを本気でやっちまったw …しかも死ぬほどベタ。 SSはセリフのボリューム的に無理でしたごめんなさい。 ・居酒屋 ユージ「…キリノ先輩? あ、やっぱり。お久し振りです」 キリノ「ユージ君?わあっ、懐かしい~ …変なとこで会っちゃったねえ」 ユージ「何やってるんすか?会社の飲み会とか?」 キリノ「んーん、今日はサヤとね~、久々に親交を温めてたのだよぉ!個室だからユージ君もこっちおいでよ~」 ユージ「いいんですか? じゃあお邪魔します…って、うぁぁ。さ、サヤ先輩?!」 半死体サヤ「あ゛~う゛~」 キリノ「あはは、その子はいつもそんなだから気にしないで、横にどけとくといいよ。 それよか乾杯しよーよ、ユージ君との再会を祝して、かんぱぁーい!」 ユージ「(親交を温めてたんじゃ…まあいいか。)乾杯、と。…高校卒業以来ですね」 キリノ「ふっふぅ~、髪、コジロー先生のまね? でも立派になっちゃって… あの頃はタマちゃんのおまけみたいだったユージ君がねえ~」 ユージ「や、やめて下さいよ… それに結局、タマちゃん…川添さんは、俺の手には余りましたから」 キリノ「そうだったねえ… でも、まさかコジロー先生と一緒になっちゃうなんてねえ~?」 ユージ「コジロー先生、どんどんやる気を取り戻して自分も強くなって… 俺が卒業する年には全日本の個人戦で優勝しちゃいましたもんね。 やっぱり、天才のタマちゃんにはそのくらい天才じゃないと、釣り合いが取れなかったんですよ。俺なんて…」 キリノ「ぉょ?ユージ君、もしかしてまだ未練たらたらなのかなぁ~? それはいけないなあ、お姉さんが慰めてあげよう!ぐいっ!」 ユージ「うわっ!…危ないですよ、って、えっ…?」 キリノ「へへぇ~ひざまくらだよ。よし、よし…」 ユージ「キリノ先輩、な、泣いてるんすか?」 キリノ「(グスン)…えへへ、変だねえ?慰めてあげる、なんて言っといて、ねえ?おかしいよね。あれれれれ?」 ユージ「………」 キリノ「…ゴメンね。サヤや私以外の人の口から出た”コジロー先生”って言葉、久し振りに聞いちゃったから、ついね」 ユージ「…せんぱ…」 突然覚醒サヤ「ぞうな゛のよ゛!!!!」 キリノ「さ、サヤ?起きたの?大丈夫?」 傍若無人サヤ「アタシは平気だよぅ…平気じゃないのはキリノ、アンタでしょ!聞いてよユージくん、この子ったらねえ… もう10年だよ!?10年も経つのにまだコジローせんせーコジローせんせーってアタシとおむたびにうるひゃ;;あぇ。がさふぁ」 ユージ「…つぶれちゃった…」 キリノ「んむぅ~、これは流石に私らはそろそろ出た方がいいのかな?」 ユージ「俺も…友達の所、戻らなきゃ。じゃあ、また。キリノ先輩」 キリノ「うん、じゃあね~またねぇ~」 ・お店の外 「ありがとうございましたー」 キリノ「ほらサヤ…立てるでしょ?しゃんとして」 サヤ「ん…あむぅ…ごむぇん、キリノぉ…」 キリノ「困ったな~、サヤん家こっから近いけど、タクシー探そうかな?」 ユージ「…よかったら、サヤ先輩俺がおんぶしましょうか?」 キリノ「え…? うわっ!あれ、ユージ君?…お友達は?」 ユージ「断って、抜けてきました。サヤ先輩大変そうだったんで。…おぶりますよ、ほら」 キリノ「(あ…そういえばこういうとこ、よく気がつく子だったねえ…) ゴメンね、お願い~」 ユージ「それじゃ、よいしょっと」 ・道中 キリノ「(うぅ~、さっきはあんなだったから、気まずいよぅ…)」 ユージ「(…なんか喋らないと、間が持たないなあ…)」 キリノ「………」 ユージ「………」 キリノ「(にしても、背、伸びたんだなぁ、ユージ君。…ちょっとホントに似てるかも)」 ユージ「(でも、キリノ先輩の…泣いてる女の人の顔、あんなに近くで見たの、そういや初めてかもしれない)」 キリノ「あ、あのね」 ユージ「あの…」 キリノ「ど、どうぞ」 ユージ「せ、先輩の方から…どうぞ」 キリノ「じゃあ… 失礼だったらゴメンね? …ユージ君は、今彼女とかいるのかなぁ?」 ユージ「お、俺っすか?居ないっすけど…」 キリノ「………(そんな事聞いてどうしよーってのよ私?)」 ユージ「………(キリノ先輩は、居ないんだよな…さっきの話だと)」 キリノ「……………(でも、居ないんだ。そうなんだ。良かった…だから何がよ?!)」 ユージ「……………(お、俺、何考えてるんだ? 10年ぶりとは言え、相手、キリノ先輩だぞ?)」 再び覚醒サヤ「ぎりのぉお!!!…………………ユ゛ージぐぅん!!!?」 二人「「…は、はいぃ!!」」 ユージ「さ、サヤ先輩?」 キリノ「ど、どったの、サヤ?」 サヤ「ぢゃあ…もう、ユージくんでいいからぁ…キリノ、貰ってっちゃってよぉ…むにゃ…」 ユージ「【横目にキリノの顔を見ながら】………///」 キリノ「【同逆】………なっ、何言ってるんだろうねこの子ってば、あははっ。 …あ、着いたよ。あそこがサヤんち」 ・サヤの家 ユージ「あ…ベッド。ここでいいですか? よっこいせっ、と」 キリノ「ありがとうねユージ君。サヤも大丈夫そうだね。 …それじゃあサヤ、私たち帰るけど。お風呂は危ないから、朝入るんだよー?」 ユージ「サヤ先輩、じゃあ、またー。失礼します」 サヤ「うぇ~いぃ~~」 ばたん。 ・駅 キリノ「…じゃあ、本当に色々ありがとうね、ユージ君」 ユージ「いえいえ、俺の方こそなんかお邪魔しちゃって」 キリノ「懐かしかったねえ…」 ユージ「そうっすねえ…」 キリノ「………」 ユージ「………」 キリノ「え、えーっと!…折角だから、アドレス交換でもしとこっか?」 ユージ「…そ、そうっすね。はい。えっと…俺のは、こうっす」 キリノ「うん。ありがと… んじゃ試しにぴ、ぴ、ぴ… 送信、っと」 ユージ「きたきた。 ………………………え?」 ”………ホントに、もらってくれる?” [終]
https://w.atwiki.jp/bamboo-blade/pages/87.html
ユージくんが目を覚まさない…… 少し風邪気味だった私にユージくんは気付いていて、部活休んだら?って言ってくれた。 でも私は高校生だから、自分の体のことぐらい分かってるから…… 稽古中、私は怠さを感じていた。頭もボーっとしていて地稽古でも東さんに一本獲られそうになった。 でもユージくんは私に打ってこない。ユージくんの実力ならここで絶対打たれてる そんな瞬間が何度かあったのに打たない。……手加減してるんだ。 そうわかったら何だかモヤモヤしてきて、私はお父さんの言い付けを破って突きを出した 踏み込みが足りなかったそれを胴胸で受けたのはユージくんの技量だと思う。 でも無理な姿勢で受けたユージくんはバランスを崩して後ろで稽古していた東さんにぶつかってしまった。 ただでさえ転んでたのに、東さんを受けとめようとしたユージくんが受け身をとれる筈がなく さらに倒れた方向にいたキリノ先輩の竹刀で面が外れたユージくんは 強かに頭を床にぶつけたのだった…… 目を覚まさないユージくんに都さんとダンくんが(その時不在だった)コジロー先生を呼んできて 先生は顔を青くしながらもテキパキと行動し(さすがは大人だ)、そのまま 私達は剣道着のままユージくんの運ばれた病院にいる。 「私がコジロー先生無しで練習始めちゃおうなんて言ったから……」 サヤ先輩。 「サヤは悪くないよ、許可したのは部長のアタシだもん。それにアタシの竹刀が……」 キリノ先輩。 「私がトロいから…!私が…!」 東さん。 「ちきしょう、剣道ってのは最も安全なスポーツなんだぞ……ッ」 コジロー先生。 その通りだ。安全じゃなかったのは私のせい。悪いのは…… 「悪いのは…」 「誰も悪くないわよ」 都さんが私の肩に手を置く。 「みんな一生懸命剣道に打ち込んでいただけじゃない」 「そうだぞぉ~それにユージは強いヤツだ。だから大丈夫だぞ」 ダンくんの言葉にみんなの俯いていた顔が少しだけあがる。 「ユージくん、あたしじゃないんだから寝坊しちゃダメだよ」 「ユージくん、はやく起きないとウチのメンチカツ無くなっちゃうよ?」 「ユージくん、剣道一緒にやろうって言ったじゃないですか」 「ユージ!お前がいないと俺と互角稽古できるやつがいなくて困るだろ」 「ユージくん……起きないとブッ殺すわよ?」 「ユージ~、男子部員を俺一人にする気か~」 みんなが思い思いの声をユージくんにかける。 私は…… 「ユージくん……」 私はなんていえばいいんだろう。ユージくんに目を覚まして欲しい。 「……起きて」 私はユージくんの唇に私の唇を重ねていた。 昔お母さんが読んでくれた眠り姫は王子さまのキスで起きるから…… 「……タマちゃん?」 「ユージくん……?」 お母さん、お母さんが話してくれた通り、ユージくんは目を覚ましてくれました。 「ユージくん!」 「え?タ、タマちゃん!?」 思わず抱きついたユージくんの肩は思ったより大きくて硬かった…… 「奇跡だ…奇跡だよぉ…」 サヤ先輩とキリノ先輩が抱き合って泣いていた。 「ユージィ、心配かけさせやがって~」 都さんとダンくんが笑っていた。 「お医者さん、お医者さんを呼ばないと!」 東さんはナースコールのコードに絡まっていた。 「俺のクビが飛ばなくてよかったぜ…」 コジロー先生は憎まれ口を叩きながら、ユージくんの両親に電話していた。 入り口で入るタイミングを失った悪の集団・外山と岩佐がうろついていた。 「ユージくん……」 ユージくんは私のオデコに手をあてて 「風邪、治ったみたいだね?」 いつものように私に笑いかけた。